研究課題/領域番号 |
17K10305
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
岡本 泰昌 広島大学, 医歯薬保健学研究科(医), 教授 (70314763)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | うつ病 / 認知行動療法 / fMRI |
研究実績の概要 |
昨今、精神科臨床では、認知行動療法に大きな関心が集まってきている。心理学的視点から作用機序の説明を試みた研究は多いが、神経生理学的機序は解明されていない。脳内のどのような機序を介して認知行動療法が効果発現に至るか(認知行動療法の情動制御機構)を解明することは、医学的な治療として認知行動療法を臨床に用いる際に必要不可欠と考えられる。本年度は、その端緒として、閾値下うつは抑うつ症状を有するが大うつ病性障害(うつ病)の診断基準を満たさない一群のfMRIデータを用いて、デフォルトモードネットワーク(Default mode network)と顕著性ネットワーク(Salience network)の関係性について検討した。デフォルトモードネットワーク成分の結合うち、前部デフォルトモードネットワークと背側前帯状回(dorsal Anterior Cingulate Cortex)との結合増強が得られたが、下後部・上後部デフォルトモードネットワークには見られなかった。背側前帯状回は顕著性ネットワークの中心領域として知られている。すなわち、閾値下うつでは、反芻に関連する前部デフォルトモードネットワークと刺激検出に関わる背側前帯状回が強く結びついていることにより、背側前帯状回が本来の機能を発揮せず、内的刺激からの注意の切り替えや外的報酬への気づきが低下していると考えられた。本研究により、閾値下うつでは脳の機能的サブネットワークが影響を受け、症状形成に関連することが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、脳内のどのような機序を介して認知行動療法が効果発現に至るか(認知行動療法の情動制御機構)の解明を目的としている。実績の概要で述べたように、3年間の研究計画において、初年度には抑うつ症状を有するが大うつ病性障害(うつ病)の診断基準を満たさない閾値下うつを対象として、情動制御機構に関わる脳の機能的サブネットワークに影響を与えていることを明らかにした。今後の研究計画において研究(介入)対象となる脳のレベルでの変化を検出することができたことより、概ね順調に進展していると考えられた。次年度は、これらの対象を用いて、認知行動療法前後(認知的情動制御での機能的サブネットワークの変化を明らかにする。
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今後の研究の推進方策 |
本研究は、認知行動療法によって強化された認知的情動制御方略がどのような脳領域を介して、情動生成・処理過程をいかに変えるかを明らかにすることを目的とする。次年度以降は、閾値下うつの大学生を介入群と統制群に無作為に割付け、介入群に認知行動療法を行い、この間の脳機能の変化をfMRIで測定し、解析に用いる。症例基準は、構造化面接(CIDI)の結果が大うつ病エピソードの基準を満たさない、スクリーニング時および構造化面接実施時,fMRI測定時の全時点でBDI-II得点が10点以上である。fMRIデータは独立成分分析を用いて解析しDMNテンプレートとの空間的相関値に基づいて3つのDMN成分(前部,下後部,上後部)を抽出し、各成分はボクセル間の時間相関を基に算出されるため得られたボクセル信号強度を成分内の機能結合値とする。その後、各成分におけるボクセル信号強度および質問紙得点のそれぞれについて、群と時期を要因に、年齢と性別を共変量とした共分散分析を行う。さらに、交互作用の得られた脳領域の結合変化量と、各質問紙の得点変化量との相関係数を算出する。なお,手続きは広島大学倫理委員会の承認を得たプロトコールに従い実施する。
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