研究課題/領域番号 |
17K10310
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研究機関 | 熊本大学 |
研究代表者 |
橋本 衛 熊本大学, 大学院生命科学研究部(医), 准教授 (20452881)
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研究分担者 |
福原 竜治 熊本大学, 医学部附属病院, 講師 (60346682)
石川 智久 熊本大学, 医学部附属病院, 助教 (60419512)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | アルツハイマー病 / 特発性正常圧水頭症 / 発現機序 / 相互作用 |
研究実績の概要 |
アルツハイマー病(AD)は全認知症患者の半数以上を占める最も重要な認知症疾患であり、早急な治療方法の開発が求められているにもかかわらず、いまだ効果的な根本治療薬は開発されていない。特発性正常圧水頭症(iNPH)は脳脊髄液の循環障害によって引き起こされる治療可能な認知症疾患であるが、iNPHとADが高頻度に合併する事が近年明らかになっている。本研究の目的は、「iNPHとADは髄液の循環動態の変化を介して互いにその発現に影響し合う」という仮説を検証し、AD治療方法の開発に寄与する知見を収集することである。 平成30年度は、症例数を543例(男性171例、平均年齢78.1歳、平均MMSE19.9点)まで増やし、ADにMRI画像上のiNPH様画像所見を伴う頻度と臨床症状(歩行障害、尿失禁)との関係性について検討した。今年度の新たな取り組みとして、iNPH様画像所見をcomplete DESH(脳室拡大、高位円蓋部のくも膜下腔の狭小化あり)とincomplete DESH(脳室拡大を認めるが、くも膜下腔の狭小化が不完全)に分類して解析した。 結果は、complete DESH が48例(8.8%)で、incomplete DESH が37例(6.8%)であった。complete DESH例では、31例(64.6%)に歩行障害を、18例(37.5%)に尿失禁を認めた。incomplete DESH 群では、7例(18.9%)に歩行障害を、8例(21.6%)に尿失禁を認めた。 健常高齢者におけるiNPH様画像所見を認める頻度は約2%で、AD患者の16%弱にiNPH様画像所見を認めた今回の結果は、ADはiNPHを合併しやすいことすなわち、ADはiNPHのリスクである可能性が示している。今後縦断的にこれらの患者を追跡し、ADの進行とともにiNPHの合併頻度が増加するかどうかの検証を行う。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究では3年間に、①ADに合併するiNPHの頻度を明らかにすることにより、iNPHとADの発症の間に相互作用がある事を実証する、②AD患者のMRI所見ならびに臨床症候を長期的に追跡し、ADの進行とともにiNPHが誘発されるかどうかを検証する、③ADにiNPHが合併するリスク因子ならびに、合併した際にADの臨床症候や予後にどのような影響を及ぼすかを明らかにする、ことを目的とする。 ①については、認知症データベースを用いた横断研究であるが、平成30年度中にAD患者800例を目標にデータを収集予定であった。しかし現在約600例までしか収集できておらず、当初の計画より遅れいている。 ②については、H30年度から、当初予定していたMRIではなくCTを用いた研究手法に切り替えた。そして研究代表者が勤務する熊本県八代市の平成病院で研究を開始したが、主任研究者が年度末に所属を大阪大学に異動することになり、患者の経過の追跡が難しくなった。このような理由により、予定通りに進行していない。 ③については、横断研究の解析から一定の成果が得られており、当初の計画通りに進展している。 以上を総合すれば、やや研究の進展はやや遅れていると判断する。
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今後の研究の推進方策 |
本研究では3年間に、①ADに合併するiNPHの頻度を明らかにすることにより、iNPHとADの発症の間に相互作用がある事を実証する、②AD患者のMRI所見ならびに臨床症候を長期的に追跡し、ADが進行することによってiNPHが誘発されるかどうかを検証する、③ADにiNPHが合併するリスク因子ならびに、合併した際にADの臨床症候や予後にどのような影響を及ぼすかを明らかにすること、を目標とする。 ①については、600例まで解析が終了しており、平成31年度は100例を追加し、合計700例を目標にMRIデータ収集を進めていく。これまでの途中解析の結果から、700例で解析は可能であると判断する。 ②については、研究代表者が大阪大学に異動したため、平成病院での研究継続は実質的に困難となった。そこで共同研究者である福原と石川が勤務する、熊本県山鹿市の山鹿回生病院と、熊本県荒尾市の荒尾こころの郷病院にフィールドを移し、調査を継続することとする。 ③については、患者が700例に達した時点でデータを解析し、そこで得られた結果を英語論文としてまとめ投稿する。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成30年度は、脳脊髄液のアミロイドやリン酸化タウの測定などの目的のため予算を着実に消化したが、成29年度に生じた80万円以上の繰越金が影響し、次年度に40万円近く繰り越すことになった。今回主任研究者が大阪大学に異動したが、前勤務地である熊本大学での頻回のデータ収集が必要なため、熊本への旅費として使用する予定である。また本年度は研究最終年度であり、データ解析のためのソフトの購入や、論文投稿のための費用にあてる。
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