研究課題/領域番号 |
17K10310
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
橋本 衛 大阪大学, 連合小児発達学研究科, 寄附講座准教授 (20452881)
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研究分担者 |
福原 竜治 熊本大学, 病院, 講師 (60346682)
石川 智久 熊本大学, 病院, 助教 (60419512)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | アルツハイマー病 / 特発性正常圧水頭症 / MRI / 相互作用 |
研究実績の概要 |
アルツハイマー病(AD)が特発性正常圧水頭症(iNPH)に高頻度に合併する事が近年明らかになっている。そこで本研究では「iNPHとADは、髄液の循環動態の変容を介して、互いにその発現に影響し合う」という仮説を立て、ADにiNPHが高頻度に合併することを示すことによって、仮説を実証することを目的とした。 研究対象は、2010年10月~2017年3月に熊本大学病院神経精神科認知症外来を受診し、Probable ADと臨床診断された60~89歳の患者467例である。本研究では、AD患者の脳MRI画像を評価し、iNPHもしくはiNPHの前段階であることを示唆する所見(側脳室拡大、高位円蓋部のくも膜下腔の狭小化、シルビウス裂の拡大の全て)を認めた場合、iNPHの合併と定義した。 結果は、467例のAD患者のうち55例(11.8%)がiNPHを合併していた。iNPH合併群55例と非合併群412例の2群間で患者背景、認知機能検査結果、臨床症状(歩行障害、尿失禁の有無)、皮質下血管性病変(白質高信号;WMH、ラクナ梗塞)の有無を比較したところ、患者背景には有意差は見られなかったが、iNPH合併群において有意に前頭葉機能低下(p=0.001)ならびに日常生活活動能力(p=0.026)が低下していた。さらにiNPH合併群では、歩行障害(p<0.001)、尿失禁(p<0.001)を有意に高い頻度で認めた。iNPH合併のリスク因子を明らかにするため、ロジスティック回帰分析を実施したところ、白質高信号と糖尿病が有意にiNPHの合併と関連していた。 本研究結果からADにはiNPHが高率に合併することが明らかになった。そして、白質病変や糖尿病が髄液の循環動態を変容することを介してiNPHとADは互いにその発現に影響し合う可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究結果からアルツハイマー病(AD)には特発性正常圧水頭症(iNPH)が高率に合併することが明らかになり、iNPHとADは互いにその発現に影響し合う可能性が示唆された。さらにADにiNPHが合併するリスク因子として、MRI白質高信号、糖尿病が同定された。 本研究では、リスク因子の一つとして、ADに高頻度に合併するMicrobleedsの影響が検証できていないことが進捗の遅れとしてあげられる。「Microbleedsは出血病変であり、iNPH合併の重大なリスクとなる可能性がある」ことが研究分担者より指摘があり、平成31年度にMRIを再評価することとなった。しかし約半数(222例)の症例においてMicrobleedsの評価が年度内に実施できなかった。その原因の一つとして、平成31年4月に研究代表者が熊本大学から大阪大学に異動したため、研究遂行のためには大阪から熊本に通う必要が生じた。しかしCOVID-19の蔓延のため令和2年2月以降熊本大学に通う事が出来ず、MRIの評価を実施できなかったことが遅れの一因として挙げられる。それと連動する形で、論文の作成、投稿が遅れている。
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今後の研究の推進方策 |
現在Microbleedsの項目を除いた解析結果を用いて論文を作成中である。COVID-19に対する緊急事態制限が解除され次第熊本大学を訪問し、残りの222例の患者のMRIを読影し、Microbleedsの有無についての調査を終了させる。その後Microbleedsの有無の結果を加えた論文を英文雑誌に投稿する。これらの手順を、緊急事態宣言解除後3か月以下に遂行する。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成31年4月に研究代表者が熊本大学から大阪大学に異動したため、平成31年度以降の研究は主として研究代表者が熊本大学に出張し実施していた。しかしCOVID-19感染症の蔓延による緊急事態宣言発令のため、平成31年度末の移動が制限され、熊本大学で実施すべき研究の遂行が一部困難となった。そのため年度末に予定していた2回分の大阪から熊本までの出張旅費ならびに論文作成時の英文校正費用を次年度に持ち越す予定である。
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