研究実績の概要 |
近年,軽度認知障害からアルツハイマー病への進行抑制因子としてビタミンDの役割が注目されている。 ビタミンDの認知症進行抑制効果を測定するため,40例の軽度認知障害患者を二重盲検法に従ってビタミンDを1日1000IU投与する群とプラセボ投与群に分け,3か月毎に12か月間神経心理学的検査(MMSE, FAB, NPI, ADAS-Jcog)およびビタミンDの血中濃度,その他の血液生化学的検査を施行しその推移を測定した。その他,研究開始時と12か月後に頭部MRI,頭部血流検査(SPECT)の脳画像検査を施行し比較検討した。 その結果,12か月後にビタミンD投与群は17例,プラセボ投与群は14例が解析対象となった。ビタミンD投与群とプラセボ投与群では12か月後に神経心理学的検査,ビタミンD血中濃度,および頭部MRIにおいて測定される海馬傍回の萎縮の値に統計学的な有意差は認められなかった。しかし,ビタミンD投与群ではプラセボ投与群と比較し,12か月後の頭部血流検査(SPECT)において右前大脳動脈の血流の増加,および右中大脳動脈の血流の増加,とりわけ島領域での血流の改善を認めた。これはビタミンDによる運動や認知機能,感情のコントロール機能の改善,交感神経や体性知覚,言語記憶,内省,罪の意識,社会的モラル感などの回復を示唆しているのかも知れない。 研究開始時の年齢がビタミンD投与群の方が高かったことは結果に対し否定的な要因ではなかったと思われる。しかし,今回の研究では症例数が少なく,また12か月後のビタミンD投与群とプラセボ投与群の間にビタミンD血中濃度に有意差を認めず,また脳血流検査で得られた結果が,認知機能検査の結果に反映されなかったため,結果の考察には慎重さを要すると思われた。今後は更にビタミンD投与量や症例数を増やし,より詳細な精神機能の測定を用いた比較研究が必要であると思われた。
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