研究課題/領域番号 |
17K10322
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研究機関 | 独立行政法人国立病院機構肥前精神医療センター(臨床研究部) |
研究代表者 |
橋本 学 独立行政法人国立病院機構肥前精神医療センター(臨床研究部), 臨床研究部, 室長 (80314805)
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研究分担者 |
門司 晃 佐賀大学, 医学部, 教授 (00294942)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 海馬萎縮 / 身体活動度 / 炎症 / 脳小血管病 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、アルツハイマー病のバイオマーカーとしての海馬萎縮をもたらす身体活動度低下の機序を明らかにすることである。初年度は一般的な炎症が海馬萎縮に関与するかについて検討した。一般住民259例(男性122例、女性137例、平均年齢64.8歳)の脳MRI健診において高感度炎症マーカーである血中high sensitve C-reactive protein(hsCRP)をELISAにより定量化した。今回測定したhsCRPは健常高齢者の「正常値」と考えられ、その平均値は1155 pg/mL(95%信頼区間は962―1348 pg/mL)であり、指数関数的に増加するので対数変換するとほぼ正規分布となった。予備的な単変量解析においてhsCRPと海馬萎縮との相関はなかったが、MRI上の脳小血管病との関連が示唆されたため多変量解析(ロジスティック回帰分析)を行なった。脳小血管病は潜在性脳梗塞、深部白質病変、脳室周囲高信号域、微小出血の有無の合計点とし、2点以上がほぼ5分位に相当したので、2点以上を脳小血管病あり(従属変数)とした。ロジスティック回帰分析では脳小血管病に相関するものとして年齢と高血圧に加えてhsCRPが示された(3分位で最も低値群に比し、最も高値群はオッズ比3.03、95%信頼区間は1.27―7.20)。以上の結果より一般的な炎症は海馬萎縮とは無関係であることが示された。身体活動度と炎症が関連するのかについては、別途解析を進める予定である。また、次年度以降は神経成長因子関連物質(BDNFなど)について検討を進める予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
最近の文献的考察から、身体活動度低下と海馬萎縮を介在する機序としてBDNFなどの神経成長因子関連物質が注目されている。しかしながら、初年度はより一般的な炎症機序が海馬萎縮に関連するのかについてまず検討した。hsCRPについては順調に測定が進行し、海馬萎縮との関連は示されなかったが、脳の動脈硬化(脳小血管病)に関与する所見を多変量解析において見いだすことができた。この成績も臨床的には重要な知見であると考えている。したがって初年度としては十分な進捗状況を得ることができたのではないかと考えている。次年度以降はBDNFやproBDNFなどについても測定し、初年度同様の解析を行なう予定である。
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今後の研究の推進方策 |
2年目は血中BDNFをELISAにより測定し、(1)身体活動度によりBDNFが増加するのか、(2)BDNFが増加することにより海馬萎縮が軽減されるのかについて、それぞれ多変量解析(ロジスティック回帰分析)を行なう。(1)と(2)が成立した場合は、身体活動度→BDNF→海馬容積を中心としたパス図を構造方程式モデリング(structural equation modeling [SEM])により複数の因子の複雑な関係性をグラフィカル多変量解析(重回帰分析)の形で検討する予定である。以上の解析により、これまで不明瞭であった「身体活動により海馬萎縮が抑制される」機序について新知見を得ることができる可能性は高いと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
1測定項目につき、例えばBDNFはELISA測定キット(1キット15万円)が7キット必要であるので消耗品として十分な額を計上していたが、初年度はhsCRP(1キット9万円)から測定することにしたので、予定より必要経費が少なくなった。その分を次年度以降の使用額として持ち越すことにしたので、次年度使用額が生じることとなった。最終的には予定通りの使用額に落ち着く予定である。
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