研究課題/領域番号 |
17K10322
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研究機関 | 独立行政法人国立病院機構肥前精神医療センター(臨床研究部) |
研究代表者 |
橋本 学 独立行政法人国立病院機構肥前精神医療センター(臨床研究部), 臨床研究部, 室長 (80314805)
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研究分担者 |
門司 晃 佐賀大学, 医学部, 教授 (00294942)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | アルツハイマー病 / 身体活動度 / 海馬萎縮 / 炎症 / BDNF / 記憶 / 遂行機能 |
研究実績の概要 |
本研究の目的はアルツハイマー病のバイオマーカーとしての海馬萎縮をもたらす身体活動度低下の機序を解析することである。対象は日常生活が自立し、認知症のない一般住民259例で、全例脳MRI検査を行なっている。一年目は身体活動度低下により炎症を介して海馬萎縮が生じるのではないかという仮説を検証した。炎症マーカーである高感度CRP(hsCRP)をELISAにより測定し、身体活動度と海馬萎縮(VSRAD Advance)との関係を検討したが、hsCRPと身体活動度や海馬萎縮との相関はなかった。hsCRPはメタボリックシンドロームとの相関が強く、また深部白質病変の成因の一つとなっていること、さらに深部白質病変がアパシーを引きおここしていることが構造方程式モデリングにより示された(既に論文化すみInt J Mol Sci 2019;20:1905)。次に、2年目は身体活動度が高いと神経栄養因子が活性化され、海馬萎縮が抑制されるのではないかという仮説を設定し、解析を行なった。神経栄養因子として脳内濃度を反映すると考えられるBDNFを測定した。BDNF測定は先日終了し、現在統計解析を行なっているところであるが、BDNFが高値であるとリバーミード行動記憶検査により評価した記憶が良好であることが示されている。また、運動習慣があると記憶と遂行機能が良好に保たれる傾向が示唆されている。BDNFと海馬萎縮やその他脳MRI初見との関連性は今後解析する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1年目の高感度CRP測定により当初の予想とは異なったが、炎症により深部白質病変を介してアパシー(血管性うつ病)が引き起こされることを見出し、これは臨床的に重要な所見と考え論文化した(Int J Mol Sci 2019;20:1905)。2年目のBGNF測定により記憶障害に関与する海馬萎縮、運動習慣と認知機能の関係、BDNFが記憶を改善するなど当初のモデルに近い形での現象を確認できつつある。この知見は新規性が高く、多変量解析と構造方程式モデリングにより全体像を解明できると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
前述したように、記憶障害に関与する海馬萎縮、運動習慣と認知機能の関係、BDNFが記憶を改善するなど個々の関係性をロジスティック回帰分析により厳密に解析し、さらに年齢、教育歴、運動習慣、海馬萎縮や脳MRI所見、認知機能(記憶や遂行機能)、アパシー、BDNFなど全ての関係性を構造方程式モデリングにより解析を進めていく予定である。データ処理としてはかなり膨大なものとなるが、3年目中には十分終了できる予定である。もし一般住民においてアルツハイマー病の初期徴候である記憶障害に(加齢はもちろんのこと)短い教育歴、運動不足、海馬萎縮、BDNF低値が関与し、それぞれの因子がどのように関連しているか、グラフィカル多変量解析である構造方程式モデリンで示すことができれば、それは極めて興味深い新知見であると期待している。
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次年度使用額が生じた理由 |
1年目のELISA測定キット購入は主任研究者側で行い、そのため分担研究者に 50万円の繰越金が発生した。2年目のELISA測定キット購入は分担研究者側で行なったが、2年目の研究費との合計で約42.5万円の残高が発生した。この額は3年目のELISA測定キット購入でちょうど使い切る額に相当する。
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