研究課題/領域番号 |
17K10325
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
木村 宏之 名古屋大学, 医学系研究科, 准教授 (50378030)
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研究分担者 |
徳倉 達也 名古屋大学, 医学部附属病院, 助教 (20378136)
栗田 賢一 愛知学院大学, 歯学部, 教授 (40133483) [辞退]
伊藤 幹子 愛知学院大学, 歯学部, 非常勤講師 (50469003)
野田 幸裕 名城大学, 薬学部, 教授 (90397464)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 疼痛性障害 / 疼痛障害モデル動物 / 抗うつ剤 / リエゾン精神医学 |
研究実績の概要 |
本研究は、慢性疼痛に対するセロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI)の治療効果の指標として、末梢血中のセロトニンやノルアドレナリン再取り込み部位(SERTとNAT)タンパク質の発現量あるいはセロトニンやノルアドレナリン濃度がなり得るかどうかを、疼痛性障害患者や慢性疼痛モデルマウスについて検討している。以下の3つのパートから構成される。1,疼痛性障害患者のセロトニンおよびノルアドレナリン関連分子の変化、2,慢性疼痛モデルマウスの疼痛行動および精神行動の評価、3,マウスの脳内と末梢血中のセロトニン関連分子の測定および関連解析 その結果として、脳内‐血液間の関連性検証からSNRI による疼痛緩和効果メカニズムの明確化を目指す。1については、疼痛性障害患者に対してSNRIの疼痛改善効果に影響を与える要因として、血中サイトカイン、末梢血のセロトニンやノルアドレナリン再取り込み部位(SERTとNAT)の発現やセロトニンやノルアドレナリンの濃度等について検討した。2については、慢性疼痛モデル動物である坐骨神経部分結紮(PSNL)マウスを作製し、疼痛行動を評価するためVon Frey試験における機械刺激に対する閾値およびプランター試験における温熱刺激に対する逃避行動潜時を測定した。精神行動を評価するため、自発運動量、ショ糖嗜好性試験におけるショ糖嗜好割合、強制水泳試験における無動時間を測定した。3については、マウス1個体から脳組織と末梢血とを同時に採取し、セロトニン関連分子のタンパク質の変化が中枢と末梢血で相関しているかどうか関連解析した。PSNL/偽手術マウスの腹部大動脈採血より末梢血を採取して血小板を分画し、同時に脳組織(前頭前皮質および海馬)を採取して、各検体におけるtSERTおよびユビキチン化SERTタンパク質の発現量をウエスタンブロティング法により測定した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
愛知学院大学歯学部外来を初診し、疼痛性障害であるBurning mouth syndrome (BMS)と診断され本研究に同意の得られた患者に対して、ヂュロキセチンの疼痛改善効果に関するデータ集積にあたっている。1について、口腔内慢性疼痛患者におけるセロトニン関連分子の変化は、健常者との比較:健常者と比較して初診時患者では総SERTタンパク質(tSERT)の発現が増加しており、ユビキチン化SERTタンパク質/tSERTは減少していた。治療後患者のtSERTの発現に変化はなかったが、ユビキチン化SERTタンパク質/tSERTは減少していた。治療前後の比較:初診時と比較して治療後ではVASおよびHAM-Dのスコアが減少していた。初診時と比較して治療後のtSERTの発現は減少傾向であったが、ユビキチン化SERTタンパク質/tSERTに変化はなかった。初診時に抑うつ状態を有する患者ではいずれも差がなかった。次に、2.について、慢性疼痛モデルマウスにおける疼痛行動および精神行動の評価とデュロキセチンの効果は、PSNLマウスでは、偽手術マウスと比較して、機械刺激に対するアロディニアおよび温熱刺激に対する痛覚過敏の発現、自発運動量、ショ糖嗜好性、および意欲の低下を呈し、うつ様行動が認められた。これら疼痛行動およびうつ様行動は、PSNL処置後のセロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害(SNRI)であるデュロキセチンの連続投与によって緩解された。3について、マウスの脳内と末梢血中のセロトニン関連分子の測定および関連解析は、偽手術マウスと比較してPSNLマウスではtSERT発現量の有意な発現変化(前頭前皮質:増加、血小板:減少)が認められた。前頭前皮質および血小板のいずれにおいても、SERT代謝の指標であるユビキチン化SERTタンパク質の発現が減少していた。
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今後の研究の推進方策 |
疼痛性障害患者におけるSNRI 治療前後の末梢血中分子変化については、対象患者数150名をめどに症例の集積を続ける。現在も、新規患者が続々と訪れているため、目標症例数は十分到達可能な目標である。研究対象者が少ない場合、研究分担者の栗田賢一教授、伊藤幹子非常勤講師の協力により、愛知学院大学歯学部第一口腔外科学講座の教室員約400名以上に、適宜、啓発する。それでも研究遂行に支障がある場合は、愛知学院大学歯学部第一口腔外科学講座の関連する複数の総合病院口腔外科から適宜協力を得る予定である。 1の口腔内慢性疼痛患者について、現時点では、口腔内慢性疼痛の発症にはtSERTやユビキチン化SERTタンパク質の発現変化が関与すること、SNRIは疼痛やうつ症状の改善とユビキチン化SERTタンパク質/tSERTに影響を与えることが示唆されている。今後は、追加症例の解析に加え、疼痛・うつ症状とトランスポーター関連タンパク質発現変化との関連性、および血漿中セロトニンやノルアドレナリンとそれらの代謝物の末梢血中濃度との関連性の解析を進める方向である。2、3の慢性疼痛モデルマウスについては、慢性疼痛モデルマウスはうつ様行動を惹起し、その行動には脳組織および末梢血におけるユビキチン化による代謝を介したtSERT発現量の変化が関連する可能性が示されており、今後は、デュロキセチンの疼痛および精神行動緩解作用にtSERT発現およびユビキチン化を介した代謝機構が関連しているかどうか詳細に検討していく方向である。 本研究の成果は、国内外の雑誌、学会などで発表を行っていく。さらに、ウェブサイトでの研究成果を公表し、プレスリリースにより国民に向けて研究成果を発信する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度、本研究の暫定的な発表(国内)について予定していたが、都合がつかずにキャンセルとなったため、117,517円の残金が発生した。次年度に国内の成果発表に使用する予定である。
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