外傷性脳損傷後の脳萎縮は、外傷に基づく脳体積の低下、軸索損傷から逆行性のdying back型変性、水頭症類似の血流・脳せき髄液排出メカニズムの変化などから生じると想定される。 外傷後の脳体積低下は、大脳で主に検討されてきたが、びまん性軸索損傷では脳神経症状が高頻度で生じ、脳幹体積の検討も非常に重要である。本研究ではびまん性軸索損傷の慢性期における脳幹体積の検討を行った。20例を対象とした検討で、全脳幹体積14.6%、橋17.1%、中脳12.6%の体積減少率を認め、減少率と急性期の重症度指標である外傷後健忘期間の強い正の相関を認めた。 軸索損傷からの逆行性細胞死については、びまん性軸索損傷で白質損傷が生じやすい脳梁をseedとし、大脳皮質への白質繊維FA値を用いたconnectome解析を行い、結合性の低下した皮質体積の変化を検討した。結果、結合性低下と皮質体積低下の相関はなく、dying back型の変性は少ないことが示唆された。大脳皮質体積低下に影響するアミロイド沈着についてはPETを用いて検討し、びまん性軸索損傷群において、側頭葉、後頭葉でアミロイド沈着の増加を認めた。 外傷性脳損傷慢性期の脳血流変化、脳室の拡張、脳実質体積低下の関連については、fMRI情報の血流信号由来のoscillationを用いたラグマップ解析を行った。結果、外傷性脳損傷では、正常では加齢に伴って生じる深部静脈排せつのうっ滞が脳室の拡張、脳実質体積の低下に影響する可能性が示された。 本研究では、大脳皮質、深部白質、脳幹のそれぞれの部位で生じる外傷性脳損傷の影響がどのように互いに関連し、結果として脳萎縮を生じるかについての検討を行った。後遺症との関連などについては未解決であり、また、脳幹体積の低下から生じる大脳機能変化などについても、今後詳細な検討が求められる。
|