うつ病、うつ状態は多様な要因が関係し、複数の病態がうつ症状により括られてうつ状態と診断される。そのため、うつ状態の治療は、初診時に大まかな方向を定めた後、薬剤選択などを試行錯誤しながら進めている現状である。この状況は患者にも、社会にも経済的負担が大きいし、患者の心理的負担も大きい。この試行錯誤を減らすことができれば患者・社会にとって有意義な結果を導くと考えられる。そのためには初診時点で薬剤選択の枠組みが定まることが望まれる。効果的な薬剤選択に指針を与える方法に求められる条件は、日常臨床で簡便に行えること、客観的であること、迅速に結果が得られること、患者の身体的・心理的負担が軽いことである。この条件を満たす方法として臺式簡易客観的精神機能検査(UBOM)があげられる。UBOMは脈拍変動、物差し落とし、乱数生成、バウム画の4課題で構成され、包括的に精神機能を評価するものである。本研究でUBOMにより初診時点で薬剤選択に指針が示せるかを検討した。会津医療センターを初診した未治療のうつ状態患者に研究への参加を求めた。参加者はICD-10によりうつ状態と診断でき、BDI、SDS得点が十分に高いことを確認した。3か月おきに1年間の経過を観察した。16人が参加したが、4人が脱落した。1年間の経過観察を完了した12人は臨床症状・社会機能が中等度以上改善していた。後方視的な検討の結果、患者は初診時のUBOM所見によりRCT延長型、MRT延長型、健常型に大別でき、RCT延長型は抗精神病薬主体、MRT延長型は抗うつ薬主体、健常型は抗不安薬主体の薬剤選択が望ましいという指針が与えられた。今後の研究により結果が再現され確かさが確認されれば、治療における試行錯誤を減らし、患者と社会が負う経済的、心理的負担を軽減することに貢献できるので社会的意義が大きい。
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