研究課題
[11C]メチオニン([11C]MET)合成の簡便法である[11C]ヨウ化メチル用いた、使い捨ての固相抽出カートリッジ(C18)を使用するフロー式標識反応のオンカラム標識法と新たに開発するイオン交換固相抽出による製剤化法をリンクさせ、合成の迅速・効率化を実現し、[11C]METの標準的製造法として確立することを本研究の目的とする。30年度の研究内容を以下に述べる。アルカリの濃度(0.5 M~0.2 M)とエタノールの混合比を変え、合成収率とD、L-メチオニン異性体の割合を調べた結果、0.3 M以下の濃度の水酸化ナトリウム液では収率が著しく低下し、原料のラクトン環の開環が不十分であり、標識反応が進行しない可能性が示された。また、アルカリの濃度の低下と共にD-異性体の割合が減少する傾向にあったが、安定的に基準値の10%以下を確保することは困難だった。[11C]MET注射剤に含まれるヨウ化物イオンは、標識反応後に精製を行わない従来法で調製した場合3.5~7.0 μg/mLであるのに対して、陰イオン交換体による精製工程を含む本法では検出されなかった。以上のことはヨウ素イオンの陰イオン交換樹脂への選択性、吸着性が極めて高く、溶出液の低濃度リン酸緩衝液ではヨウ化物は脱離しないことが考えられた。自動合成装置の開発には先ず、市販の使い捨て三方活栓、シリンジ、チューブを組み合わせてカセット化し、少量の放射能を用いて手動で操作し合成を行い、本法が適応可能かどうか評価した。その結果を踏まえて、[11C]METの製造工程を効率的に実施可能な装置を製作した。三方活栓の駆動機構は合成装置の基軸をなす部分であるため、自動合成装置メーカーの協力を得ながら製作し、これに滅菌チューブを組み合わせて全体の流路を構成した。送液はシリンジを手動で操作し合成を行い、本法が忠実に実施できることが確認された。
2: おおむね順調に進展している
[11C]METの合成において、[11C]ヨウ化メチル用いるオンカラム標識法の反応条件を最適化し、イオン交換固相抽出によって、[11C]METを単離・精製し、製剤化する方法が確立された。基質反応液の組成と反応効率および基質由来の不純物の生成との関連を系統的に調べ、固相抽出の工程を不純物と製剤の分析結果に基づいて効率化し、得られた製剤について、各種品質試験、光学異性体および夾雑物の測定を行い、製法の妥当性の評価をした。また、[11C]METの製造工程を効率的に実施可能な使い捨てカセット式の合成装置を試作した。以上より、30年度まで実施計画に基づいて概ね順調に進展しているものと考える。
岩手医大サイクロトロンセンターは30年度末で閉鎖になり、令和元年度からは青森県量子科学センター(六ヶ所村)に研究の拠点を移す。今回製作した合成装置を移設し、HPLCのほか分析機器、薬剤品質管理機器はすべて揃い、今までと同様の研究環境が整備されており、課題研究の遂行には全く支障はない。最終年度では[11C]METの製造工程に基づき、効率的に機能する装置を設計し、試作機を完成させる予定である。装置の構成は、三方活栓など使い捨て部品を利用する[11C]ヨウ化メチル合成装置(液相法)、および既に製作した三方活栓駆動機構にシリンジを自動駆動するモジュールを追加して[11C]MET製造システムを構築する。また、これまでの研究期間内に遂行できなかった実験、または補足する実験を行い、合成方法の妥当性と信頼性を堅固なものにし、本法を[11C]METの標準的製法として提言するとともに、全国のPET施設への技術移転を積極的に推進する。
発注した試薬がメーカー側の品質管理機器の不具合により、年度内に納品されなかったため、次年度使用額に差が生じた。試薬は令和元年度早期に納品されることから有効に活用できる。
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