本研究はα線放出核種アスタチン211(At-211)を用いた放射線免疫療法の実現に向け、抗体分子へのAt-211標識法と標識抗体の体内動態、腫瘍集積について検討するとともに、体内動態・分布を推定・追跡可能とするポジトロン放出核種標識によるPETイメージング法についても検討し、セラノスティクス手法の確立を目指すものである。 本研究においてはAt-211標識体がCu-64標識体と同様の体内動態を示すことが前提となるため、我々はまず従来のCu-64標識抗体実験での知見に合致するAt-211標識抗体の腫瘍集積を実現することを目指し、At-211標識法について検討した。ホウ素クラスター化合物decaboraneとAt-211標識後の疎水性増大を緩和する親水性のPEG鎖を導入したリンカーdecaborane-PEG4-dibenzylcyclooctyneを用いることで従来のCu-64標識抗体PETイメージングと同様の高い腫瘍集積を実現し、さらにAt-211による顕著な抗腫瘍効果を示すことに成功した。しかしながら、pretargeting法への展開のために合成したtetrazine体とtrans-cyclooctene修飾抗体を用いた検討においてはCu-64との標識率低下やAt-211標識におけるradiolysisの可能性、低分子として投与した場合の高い腎集積と腫瘍への低集積など多くの課題が残る結果となった。同一化合物によるセラノスティクス概念の実現のために、今後は異なるpretargeting手法やリンカー構造の改変、前駆体抗体の投与タイミング、internalizationの少ない細胞株の利用などにより問題点の改善を検討したい。
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