研究課題/領域番号 |
17K10388
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研究機関 | 滋賀県立総合病院(研究所) |
研究代表者 |
加川 信也 滋賀県立総合病院(研究所), 画像研究部門, 主任研究員 (10393191)
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研究分担者 |
東 達也 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構, 放射線医学総合研究所 分子イメージング診断治療研究部, 部長(定常) (50324629)
西井 龍一 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構, 放射線医学総合研究所 分子イメージング診断治療研究部, 主幹研究員(定常) (60463212)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | フルオロ酢酸 / 脳虚血 / 虚血性脳血管障害 / PET / [18F]FACE |
研究実績の概要 |
これまでに我々は、酢酸(acetate)をフッ素標識したPET診断薬[18F]Fluoroacetate ([18F]FACE)に着目し、臨床応用へ向けて新規に開発した合成法であるone-pot蒸留法の合成やラット脳虚血-再灌流モデル及びヒト脳虚血患者における[18F]FACEの取り込みについて検討し、15O-ガスにおけるOEF(脳酸素摂取率)との関係について報告してきた。本研究では、虚血性脳血管障害を判別可能にする画像診断の開発を目指し、様々な酢酸誘導体を世界初の薬剤として合成し、従来の15O-ガスを用いた脳PET検査とは異なる新たな脳虚血イメージング法の開発及び[18F]FACE集積機序の解明を行なう。 今回、[18F]FACE合成におけるone-pot蒸留法を改良し、イオン交換カラムの代わりに逆相カラムを用いてHPLCの分離精製を省略した方法(蒸留及び逆相カラムで分離捕集して水洗いした後、少量のエタノールを含む水で目的物を溶出)を用いて、Methyl [18F]Fluoroacetate (Methyl [18F]FACE)及びEthyl [18F]Fluoroacetate (Ethyl [18F]FACE)の合成を確立した。その結果、HPLCの分離精製を省略した方法を用いた合成は、合成前準備及び後片付けを簡素化することが可能であり、今後の臨床応用での有用性が非常に期待される方法であった。さらに、薬剤安定性の高いMethyl [18F]FACEを用いて、モデル動物を用いた検討を行った。再灌流2時間後の虚血側中大脳動脈域におけるMethyl [18F]FACEの取り込みは、反対側に比較して著明な増加を示したことから、Methyl [18F]FACE-PETは、虚血性脳血管障害の診断に有用である可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和元年度は、HPLCの分離精製を省略した方法を用いて、Methyl [18F]Fluoroacetate (Methyl [18F]FACE)及びEthyl [18F]Fluoroacetate (Ethyl [18F]FACE)の合成を行った。Methyl [18F]FACE及びEthyl [18F]FACEの標識合成は、JFEエンジニアリング社製のカセット式多目的合成装置を用い、前駆体3.3 mgをアセトニトリル0.5 mLに溶解してK[18F]/Kryptofix 2.2.2を用いてフッ素化反応を行なった。フッ素化後、蒸留後に固相抽出としてSep-Pak C18 Cartridgeを用いてエタノールで抽出する方法で合成を行った。その結果、Methyl [18F]FACE及びEthyl [18F]FACEの合成は、放射能:20 GBq以上、合成時間:約40分、収率:65%以上、 放射化学的純度:99%以上で、簡便かつ安全に合成できた。 さらに、薬剤安定性の高いMethyl [18F]FACEを用いて、ラット脳虚血モデルにおける障害側への取り込みについて検討を行った。脳虚血後45分では、虚血側中大脳動脈域における障害側へのMethyl [18F]FACEの取り込みは、反対側である正常側に比較して約2倍の著明な増加を示した。これらの結果から、Methyl [18F]FACE-PETは、虚血性脳血管障害の診断に有用である可能性が示唆された。
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今後の研究の推進方策 |
前臨床段階として、モデル動物を用いてその有用性を検討するため、イソフルレン麻酔下にて中大脳動脈の一過性脳虚血/再灌流障害(transient MCAO)モデルラット(虚血時間60分間)を作製し、拡散強調MRI、灌流MRI画像により当該中大脳動脈域の虚血を確認する。再灌流2時間後および再灌流7日後にBenzyl [18F]FACE、Methyl [18F]FACE及びEthyl [18F]FACE(150 MBq/kg, i.v.)をそれぞれ投与し、60分間のPET撮像を行なう。また、同時期にTTC染色も行い、梗塞巣を確認し、虚血性脳血管障害を判別可能にする画像診断法の開発を目指す。 更には、Benzyl [18F]FACE、Methyl [18F]FACE及びEthyl [18F]FACE以外の[18F]FACE誘導体も合成し、虚血性脳血管障害を判別可能にする新たな画像診断ツールの開発を目指す予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由)動物を用いたPET画像実験は、動物用PET装置という高額で特殊な機器を必要とすることから、これら検討は理化学研究所との研究協力体制の基で研究を遂行していく必要があるが、令和元年度に理化学研究所の放射性薬剤自動合成装置に不都合があり、令和2年3月半ばにオーバーホールを行った。
(使用計画)放射性薬剤自動合成装置の修理が終了したので、理化学研究所にて、ラット脳虚血-再灌流モデルを用いたPET検査を行う予定である。PETダイナミックスキャン及び全身像を撮像するための費用が必要であり、その他PET薬剤合成費や出張費に使用する予定である。
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