複雑な線量分布を形成可能な高精度放射線治療や、CT、IVR をはじめとする放射線診断装置による医療被ばく管理には、人体内の詳細な線量分布を精度良く評価することが求められている。人体模型内に線量計を挿入して局所的な線量測定を行う従来法では、測定に多くの時間を有し、また、線量計自身の放射線吸収や散乱の影響により高空間分解能での評価が困難である。そこで、申請者らはセラミックスが密度や形状を可変でき、かつ放射線計測に用いられる熱蛍光特性を有していることに着目して、セラミックスによる人体模型を作製し人体模型のファントム自体が線量計として機能する放射線診断・治療時の人体内3 次元線量分布評価システムの開発を進めている。放射線治療・診断のQA の高度化や医療被ばくのリスク評価の信頼度向上が期待される研究である。 2017年度から2021年度までの計画で、具体的な実施内容は①骨および筋肉組成等価な熱蛍光スラブ材料の開発とその評価②軟組織・脂肪組成等価な熱蛍光スラブ材料の開発とその評価③選定した熱蛍光材料の人体模型化と線量読み取り技術の確立④全自動熱蛍光測定装置を改良、である。2017年度から、①および②の骨・筋肉・軟組織・脂肪組成等価な熱蛍光スラブ材料の開発を行った。まず、アルミナの密度制御率と各組織との等価性を理論的に考察し、深部線量百分率や軸外線量比などにおいても目的の組織との等価性を評価した。実際に骨と筋肉等価のファントム線量計は、密度制御アルミナ熱蛍光板で製作できることが分かった。2020年度からは軟組織・脂肪組織等価ファントム線量計に取り組み、BeOが有力であることを示した。また、2021年度は実施内容の③と④に注力し、ファントム線量計の測定装置を開発した。感度に問題が残ったが、高額ではあるが感度の高い光センサーを用いることで問題解決できることも分かった。
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