悪性腫瘍の診断と治療が発達し患者の予後が著しく改善するのにともない、治療の副作用が注目されるようになった。頭頸部がんに対する放射線治療により脳卒中のリスクが増加することはその代表的かつ重大な事象である。がんに対する放射線治療は、ガン細胞が正常細胞よりも放射線感受性が高く、DNA損傷により細胞死に至りやすいことを利用している。しかしながら放射線治療により正常細胞においてどの程度DNA損傷が生じるかに関する情報は乏しい。本研究では、頭頸部がんに対して放射線治療を受ける患者から採血、単核球を分離し、治療前後において、DNA二本鎖切断のマーカーとしてγH2AXを、染色体異常の指標として二動原体染色体を定量した。放射線治療前に比して、治療後1細胞あたりγH2AXのフォーカス数および二動原体染色体数は有意に増加した。IL-6やIL-1betaなど炎症性サイトカインの発現も増加した。またNF-kBの有意な活性化も認められた。頸動脈エコーにおいては、治療前より対照群に比して内膜中膜複合体肥厚度 (IMT)は増加していたが、治療6ヶ月後までにさらなる有意な増加は認められなかった。また脳卒中などの有害事象も生じなかった。以上より、放射線治療による被ばくにより単核球においてDNA損傷が生じることを契機に炎症シグナルが活性化し、サイトカインの発現が生じることが明らかとなった。これら一連の現象が、動脈硬化の促進に寄与することは示せなかったが、今後も症例数を重ねると同時に、長期間フォローアップをするなど検討を続けたい。
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