研究実績の概要 |
急性放射線障害は、高線量の放射線被ばくにより組織幹細胞がダメージを受け、骨髄や消化管等の細胞の欠落に伴い、出血や感染症・吸収障害が起こり、重篤な場合は死に至る。造血幹細胞移植が奏効する場合があるが、ドナー不足や移植後の拒絶反応により、治療の実施は困難であり、実施できたとしても成功率は低い。被ばくした治療対象者本人由来のiPS細胞の治療への応用の可能性について検討を行うため、被ばくマウス由来細胞を用いてiPS細胞の樹立を試みた。 マウス個体に X線を0, 0.1, 0.5, 1, 2, 3Gyの全身照射を行った後、X線照射から7日後のマウス尾組織から線維芽細胞を採取・培養を行った。各線量のX線を単回照射したマウスは、被ばくから7日後まで全てのマウスが生存し、線維芽細胞を得ることが可能であった。一方で、非照射群に比べ、照射群では、尾から採取して増やした線維芽細胞の数に軽度な減少を認め、特に3Gy照射群から採取した線維芽細胞で顕著に少なかった。このため、0, 0.1, 0.5, 1, 2 Gy照射個体由来の増殖期に入った線維芽細胞を用いて、レトロウイルスベクターでOct3/4, Sox2, Klf4, c-Mycの4因子を導入した。感染効率は、dsRedを用いて確認し、感染から15日目にアルカリフォスファターゼ(ALP)染色を行い、非照射群、照射群の全ての線維芽細胞からALP陽性のマウスiPS細胞コロニーを作出することが可能であった。また、非照射個体由来のコロニー、各線量で被ばくしたマウス由来のiPS細胞のコロニーをピックアップし、それぞれのiPS細胞クローン株を樹立する事ができた。さらに、コントロールに用いるiPS細胞として、マウス尾由来細胞のみならず、マウス胎児由来線維芽細胞やヒト血液細胞からもiPS細胞のクローン株を作製した。
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