研究実績の概要 |
各線量(X線0, 0.1, 0.5, 1, 2 Gy)の被ばく個体由来マウスの尾組織から線維芽細胞を採取し、iPS細胞の作製を行った。被ばく個体由来線維芽細胞は、被ばくによる増殖への影響を考慮する必要があるため、Oct3/4, Sox2, Klf4, c-Mycの4因子に加えてdsRed2を導入し、レトロウイルスベクターの感染効率を確認しながら、iPS細胞を作製した。コロニー形成数を感染効率で補正すると、0.1 、0.5 Gyなどの低線量照射群に比べ、2Gy照射群では、形成されるコロニー数は減少した。さらに形成されたコロニーを拾い、iPS細胞クローンの樹立を行う過程で、1Gy、2 GyのiPS細胞クローンでは、培養途中で死滅するなどの現象が生じた。 樹立した被ばく個体由来iPS細胞クローンについて、ゲノム不安定性について検討するため、ゲノムの構造異常を解析するための方法として、染色体1,2,3番について、多色FISHを用いてMEF(マウス胎児線維芽細胞)による条件検討を行った後、0 Gy, 2 Gy照射個体由来iPS細胞について、染色体の本数および構造異常に関する解析を行った。染色体本数が正常、異数性を示すiPS細胞の割合について検討した所、0 Gyと2 Gy照射個体由来iPS細胞について大きな差は認められなかった。また、多色FISHを用いた検討では、0 Gy, 2 Gy照射個体由来iPS細胞を合計で12クローンについて解析を行った。それぞれ、染色体の構造異常を有するiPS細胞クローンを1クローンずつ検出した。しかしながら、対象とする染色体が1-3番のみであることから、染色体異常の検出率が低いと考えられた。放射線照射個体由来iPS細胞のゲノム不安定性について明らかにするためには、今後更に詳細なゲノム解析を進める必要があると考えられた。
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