本申請研究は、UTX-103の抗腫瘍活性や放射線増感活性の詳細な機序を明らかにし、腫瘍移植鶏卵モデルおよびマウスモデルを用いて放射線増感剤としての有用性を評価してより最適なリード化合物を設計・合成し、臨床利用が可能な放射線増感剤の創出を行うものである。平成31年度の計画は、平成29-30年度で得られた化合物のQSARを行い候補薬剤の最適化を図り、動物実験・前臨床試験に供与可能な放射線増感剤を創出することである。今年度の研究成果として、ダサチニブをリード化合物とした新規放射線増感剤の創製を試みた。ダサチニブはがん細胞を過剰に増殖させるBCR-ABLへATPと競合的に結合するチロシンキナーゼ阻害剤であり、近年では放射線増感効果が報告されている。まず、合成として、Acetobromo-α-D-glucoseを出発原料として炭酸銀を用いて開環を行なった。その後、無水コハク酸と反応させてカルボン酸体を得て、最後にダサチニブと縮合反応を行い、目的物であるアセチルグルコース修飾ダサチニブ誘導体1の合成に成功した。誘導体1はA431細胞に対して10 uM以下では毒性は見られなかった。また、6 Gyの放射線照射に対し、誘導体1はダサチニブと比べて2.92倍の有意に高い放射線増感効果を示した。さらに、誘導体1は、細胞外において経時的にダサチニブとアセチルグルコース部分に解離していることが確認された。このことから、誘導体1の放射線増感の作用機序として、誘導体1は細胞外のエステラーゼによりダサチニブとアセチルグルコースに解離し、それぞれが細胞内に取り込まれて放射線増感効果を発揮していることが示唆された。以上の結果より、アセチルグルコース修飾ゲフィチニブ誘導体UTX-115およびアセチルグルコース修飾ダサチニブ誘導体1を動物実験・前臨床試験に供与可能な放射線増感剤として創出することに成功した。
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