研究課題/領域番号 |
17K10492
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
深田 淳一 慶應義塾大学, 医学部(信濃町), 講師 (50338159)
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研究分担者 |
公田 龍一 慶應義塾大学, 医学部, 助教 (00464834)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | グリオーマ / 放射線低線量照射 |
研究実績の概要 |
複数の膠芽腫細胞系(U251、LN428)に対して、照射間隔(0-30分)を変じて低線量反復照射(20cG×10回)を行い、細胞応答(生存率、細胞周期、DNA損傷、アポトーシス分画等)を測定した。生存率はコロニー形成法とトリパンブルー染色法にて測定した。細胞周期、アポトーシス分画はフローサイトメトリーを用いて測定した。Annexin V抗体/ヨウ化プロピジウムを用いて、アポトーシスの初期段階についても検出をおこなった。DNA損傷については、γH2AX抗体を用いて、免疫染色で蛍光を観察した。鏡見によりアポトーシス以外の細胞死(細胞老化、分裂期細胞死)についても確認をおこなった。 細胞周期については照射間隔の変化による明らかな分画の差は検出できなかった。コントロールとして用いた10Gy単回照射ではG2/M期分画とsubG1分画の増加を確認することができた。アポトーシス分画の検出では、同様に照射間隔の変化による分画の差はわずかであり、10Gy照射48時間後に測定した群でアポトーシス分画の増加を確認することができた。 引き続いて、G2-M期への同調をシェイクオフ法で行った。フラスコシェイカーを用いて培養液中に浮遊した細胞を鏡見し形態を観察したのち回収した。Hoechst33342で核を染色し観察した。トリパンブルー染色法では浮遊液中にG2-M細胞と死細胞片が混在するため可及的に緩衝液で洗浄した。T75フラスコを3本用いたが回収率としては予測していたほど高くなく、十分な細胞数を回収できなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
全細胞周期における細胞応答(生存率、細胞周期、DNA損傷、アポトーシス分画等)の測定はこれまでも経験しており、比較的予定通り進行することができた。投与間隔による細胞周期、アポトーシス分画の差はわずかであったが、G2/M期の細胞分画がもともと小さいため、強度が低い侵襲である低線量照射による変化はわずかであることが予測されることから、これらの結果については、予想通りであった。そこでG2/M期の細胞をシェイクオフ法で集めることを試みたが、培養液中に浮遊させ、状態の良い浮遊液を得ることに苦慮しており、時間を要している。細胞をコンフルエントにすることなく、多くの細胞を回収することが容易ではないためである。シェイクオフ法は細胞へのダメージが少なく、G2/M期の細胞を集めることができれば低線量反復照射の放射線感受性を純粋に評価することができるが、単回のシェイクオフ法では限界とも考えられる。 全体として、全細胞周期の細胞を用いた低線量反復照射による細胞応答測定は予定通り遂行できたが、侵襲の小さいシェイクオフ法による細胞回収に苦慮しており、初年度はG2/M期細胞の効率的な回収法の確立を目標としていたため、進捗状況としては若干の遅れをみている。
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今後の研究の推進方策 |
単回のシェイクオフ法による細胞回収の限界を確認するため、回収した細胞をフローサイトメトリー法で測定し、細胞周期の分画を測定する。十分な細胞回収が困難な場合や、G2/M期の細胞の同調が困難な場合は、ノコダゾールなどの細胞周期をブロックする薬剤を併用して細胞回収を行い、より効果的なG2/M期の細胞回収方法を確立する。そのうえで、全細胞周期とG2/M期の細胞に対し、それぞれ低線量反復照射を行い、細胞応答生存率、細胞周期、DNA損傷、アポトーシス分画等)を測定し、違いを見出す。次に放射線超感受性の機序解明としてまず細胞周期関連因子、DNA損傷応答関連因子、がん幹細胞表面マーカーCD133+等に焦点をあてて検討する。手法としては、まずタンパク解析としてウェスタンブロッティングを行い、関連が示唆された場合、さらに遺伝子解析としてPCRを行う予定である。特定に難渋した場合はマイクロアレイを用いて網羅的に解析を行い、発現が亢進しているRNAを見出した後、低線量放射線超感受性に関与している遺伝子候補を探索する。遺伝子を見出することができたら、前述の2群にその阻害剤と低線量照射との併用を行い、細胞応答を測定することで、有効な放射線増感剤を見出す。
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次年度使用額が生じた理由 |
初年度の研究計画のうち、G2-M期細胞の同調に時間を要したため、使用した試薬類(消耗品費)および解析機器使用料(その他)などの費用が当初の予定より少額にとどまったことが、次年度使用額が生じた原因である。次年度は当初予定していた試薬類の購入及び結果解析に使用する専門的な解析機器使用料、旅費等での使用を予定している。また、実験補助スタッフ(人件費)への支出を追加して行うことで、研究を効率的に遂行する。
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