研究課題/領域番号 |
17K10498
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研究機関 | 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構 |
研究代表者 |
中山 文明 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構, 放射線医学総合研究所 放射線障害治療研究部, グループリーダー(定常) (50277323)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 血管肉腫 / 放射線治療 |
研究実績の概要 |
いわゆるAngiosarcomaには、血管由来とされる血管肉腫とリンパ管由来とされるリンパ管肉腫が含まれたもので、従来は血管肉腫とリンパ管肉腫の正確な鑑別が困難だったため、放射線療法についても両腫瘍を区別せず実施されている。そこで、増澤らが樹立したヒト血管肉腫細胞株ISO-HAS-B細胞株、ヒトリンパ管肉腫細胞株Mo-LAS-B細胞株を用いて、異なる由来の血管肉腫のX線に対する放射線感受性をHigh-density survival assay で比較検討した。その結果、D10は共に6Gy未満であり、一般的に放射線抵抗性と言われている細胞株よりは放射線感受性であったが、マウス血管肉腫細胞株ISOS-1細胞よりは、両ヒト細胞株は放射線抵抗性だった。一方、ISO-HAS-B細胞とMo-LAS-B細胞の比較では、それらのD10には有意な差が認められなかったことから、ISO-HAS-B細胞とMo-LAS-B細胞は同等の放射線感受性を有していると考えられた。 令和元年度は、ISO-HAS-B細胞とMo-LAS-B細胞の放射線照射後の転移能の検討を行った。方法は放射線源として炭素線を用いて、マトリジェルを使った浸潤アッセイで評価した。その結果、現時点ではある範囲の線量域でMo-LAS-B細胞の方がISO-HAS-B細胞よりも浸潤能の低下を示すことが示された。両細胞とも検討した線量範囲内では照射による明らかな浸潤能の亢進は認められず、線量が高くなると両細胞とも同等レベルの浸潤能の低下となった。すなわち、放射線の照射は、血管肉腫の転移抑制に効果があり、リンパ管肉腫は低い線量でも効果が発揮される可能性が示唆された。今後さらに解析を続けていく予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
各腫瘍細胞の転移関する解析は、アッセイの条件設定の試行錯誤により遅延しており、結論を得るためにさらなる時間を要する。それに伴って、DNAマイクロアレイやWestern blottingによるメカニズム解析も遅延している。
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今後の研究の推進方策 |
血管由来とされる血管肉腫とリンパ管由来とされるリンパ管肉腫をそれぞれ代表するものとして、ヒト血管肉腫細胞株ISO-HAS、ヒトリンパ管肉腫細胞株Mo-LAS細胞を使って、炭素線照射後の浸潤能を検討したが、来年度はX線照射後の転移能も測定する。方法はマトリジェルを使った浸潤アッセイだけでなく、IncuCyteを用いたスリット法によるmigration assayも行う。各血管肉腫細胞株でX線照射による変化を検討し、転移能が増加もしくは減少する線量域を同定する。さらに、マウス脾臓への各血管肉腫細胞を注射し、その細胞の肝臓への移動を計測することでin vivoの転移能を評価するアッセイを作成する。このアッセイを用いて、血管由来とされる血管肉腫とリンパ管由来とされるリンパ管肉腫の放射線治療後の転移能を検討する。 ヒト血管肉腫細胞株ISO-HAS細胞・ヒトリンパ管肉腫細胞株Mo-LAS細胞を使って、X線による細胞内の変化をDNAマイクロアレイで解析する。関連候補分子は、Western blottingにても検証し、阻害剤等を使った阻害実験も追加して、その関連性を探索する。 これまでの結果をまとめて、血管由来とされる血管肉腫とリンパ管由来とされるリンパ管肉腫との放射線治療に対する反応性の相違を総合的に評価する。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初計画が予定通り進まず、若干の遅延に至っている。特に、各腫瘍細胞の転移に関する解析は、アッセイの条件設定の試行錯誤により遅延しており、結論を得るためにさらなる時間を要する。それに伴って、DNAマイクロアレイやWestern blottingによるメカニズム解析も遅延している。使用計画としては、転移能の測定のための細胞培養及び動物実験、遺伝子発現解析や生化学解析のための試薬購入、補助事業の目的をより精緻に達成するための学会参加を予定している。
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