臓器あるいは細胞の他家移植時に生じる細胞性拒絶は主要組織適合抗原(major histocompatibility complex:MHC)によって制御されている。細胞性拒絶の制御においては移植後の免疫抑制剤によって行われているものの、過剰な免疫抑制は感染や悪性腫瘍、薬剤性腎障害等の副作用を引き起こしてしまう。このような問題点を解決させる方法としてドナー細胞表面に存在するMHCに着目し、CRISPR/Cas9システムを用いてMHC抑制細胞の開発ならびに移植後の細胞性拒絶反応に関して検討を行った。 まず、最適なMHC抑制細胞を作製するため、様々な遺伝子導入法を用いてCRISPR/Cas9システムを肝癌細胞株(HepG2)ならびにヒト初代肝細胞への導入を試みた。リポフェクションならびに電気穿孔法ではMHC抑制は確認できなかったものの、ウイルスベクター法ではどちらの肝細胞においても約15%の細胞においてMHC発現を抑制させた。そこでMHC抑制細胞から細胞シートを作製するために、磁気細胞分離法によってMHC抑制された細胞のみを高純度に回収(約90%)し、温度応答性培養皿上で7日間培養後細胞シートを作製した。作製した肝細胞シートを野生マウス(BALB/c)に皮下移植を行い、移植3、5日目における細胞性拒絶反応を評価した。MHC抑制細胞は移植3、5日目ともにマウス皮下に残存していた。皮下断面をH&E染色した結果、細胞シート周辺に免疫系細胞が散在するような状態ではあるものの、免疫拒絶された様子はなかった。 これらの結果よりCRISPR/Cas9システムによってMHC抑制された細胞は細胞性拒絶反応を起こしにくいMHC抑制細胞は他家移植において有望な細胞ソースになりえることを明らかにした。
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