本研究は、免疫抑制剤から離脱し臨床的免疫寛容となった小児肝移植患者らを対象に、血清学的検査、免疫学的検査、病理組織学的検査を行い、免疫寛容のメカニズム解明を追求すると同時に、免疫抑制剤離脱可能な患者(Operational tolerance:OT)と困難な患者の鑑別を示す簡便なマーカーを同定することが目的である。 平成29年度~平成30年度は、我々が考案した免疫抑制剤減量プロトコールに基づき、小児肝移植後長期患者における免疫抑制剤減量・離脱例の蓄積を行った。免疫抑制剤減量プロトコールによるOTトライアルの条件は、1)肝移植後2年以上経過、2)過去1年間の肝機能が安定、3)ステロイド非服用例、4)免疫抑制剤タクロリムスの血中濃度が基準値(2.0ng/ml)以下、5)タクロリムスの投与量が基準値(0.05mg/kg/day)以下、を満たす患者であるが、期間中に該当する患者がなく新規エントリーは行わなかった。OTトライアル中の2例において、プロトコールでの更なる減量と免疫抑制剤離脱が可能であった。OT患者、及びOTトライアル患者に対しては、免疫グロブリン、各種自己抗体(抗核抗体、抗平滑筋抗体、抗ミトコンドリア抗体)、抗HLA抗体、線維化マーカー(ヒアルロン酸、M2BPGi)を定期的に測定し、それらの推移と臨床経過や肝機能を比較検討した。 これまでのOT患者32例中、免疫抑制剤が再開となった5例(再開群)と免疫寛容が維持できた27例(離脱群)での比較では、自己抗体陽性率、血清ヒアルロン酸値、病理組織学的所見において有意差を認めた。抗HLA抗体の陽性率や最高MFI値は、2群間で有意差を認めなかった。平成30年度までの研究成果は日本移植学会総会にて発表し、最終年度となる平成31年度は国際学会にて成果報告を行った。
|