研究課題/領域番号 |
17K10525
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研究機関 | 日本医科大学 |
研究代表者 |
横田 裕行 日本医科大学, 大学院医学研究科, 大学院教授 (60182698)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 脳死判定 / 臓器提供 / 電気生理学的検査 / 脳血流検査 / 補助検査 |
研究実績の概要 |
平成26年10月に内閣府が公表した「臓器移植に関する世論調査の結果について」は、脳死と診断された時に臓器移植をしたいと意思を表明している割合は8.2%、平成28年3月に日本臓器移植ネットワーク(JOT)が一般人3000人を対象としたアンケート調査では、11.1%が意思表示カード等で臓器医提供に関する意思表示をしていることが明らかとなっている。これらの結果から考慮すると、本邦における脳死下臓器提供数は本来予想される数値より大幅に少ない。様々な要因がある中で、眼球損傷や頸髄・頸椎損傷で脳幹反差や評価できないことも一つの原因である。すなわち、このような症例が脳死状態に至った際には脳死下臓器提供への生前意思が明らかで、家族が臓器提供を承諾している場合でも、上記のように脳幹反射が評価できないために法的脳死判定は出来ず、脳死下臓器提供の希望が反映されない。このような場合でも、補助検査等を利用することで法的脳死判定を可能とする必要がある。脳死判定における補助検査は、本邦においてevidenceに基づく報告がないために、現在の脳死判定基準を補完する位置づけにはなっていまない。一方、海外においては補助検査を使用することで、脳幹反射が評価できない場合であっても脳死の診断を可能とする国々も存在する。脳死判定に補助検査を有効に利用することで脳死判定が可能となれば、上記のような場合も脳死下臓器提供が可能となり、脳死下臓器提供数は約3割の増加することが報告されている(平成14年度ヒトゲノム・再生医療等研究事業研究班報告書)。今回の研究で脳死判定における電気生理学的等の補助検査の有用性を検討し、過去の文献によるevidenceに基づいて明らかにした。本研究では電気生理学的手法と脳代謝等の手法から、脳死判定のgold standardといわれる脳代謝の不可逆的停止を確認することとした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は3つのフェーズを想定して進行している。すなわち、【フェーズ1】は平成29年度の初年度から開始する研究で、重篤な頭蓋内病態と電気生理学的、脳血流の関連を過去に日本医科大学高度救命救急センターで加療した患者患者からのデータを集積することとした。同時に、海外における補助検査の位置付について文献集積を行うことを想定した。なお、【フェーズ2】は平成30年度からを目途に開始し、上記で得られたデータを神経電気生理学的検査や脳血流の所見と脳死判定基準、特に脳幹反射(対光、角膜、前庭、眼球頭、咽頭反射など)との関連を検討する予定で、【フェーズ3】は平成31年度の最終年度に、過年度で得られた知見が脳死の病態との矛盾がないか、そして本邦脳死判定の補完する手法として位置づける適切性の検討をおこなう。 そのような中、フェーズ1に相当する今年度は過去、当施設で入院加療した患者のデータ集積や海外での報告の渉猟を行った。 一方、脳死判定における補助検査の位置づけに関して海外では、脳幹反射が評価できないような場合に、それらを補完する形で使用されている。Wijdicksらは、具体的な補助検査の意義は不明であるが、脳死判定の際の1回目と2回の観察時間を短縮や小児脳死判定の際に用いられる傾向があるという。Pettyらの報告によると神経学的に23例が脳死と診断されても、TCDでは2例に血流が確認された。同様に、de Freitasらの報告では神経学的に脳死と診断された270例中、47例にTCD上の血流が確認された。このように現時点での脳死判定における補助検査の意義を総括することは困難であるが、外傷や疾患自体の問題で脳死判定基準の脳幹反射が評価できない場合に、それらを補完する意義や無呼吸テストを完了できない場合の意義が強調されている。
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今後の研究の推進方策 |
前述のように本研究は3つのフェーズを想定して進行しているが、平成29年度はフェーズ1をほぼ終了した。すなわち、重篤な頭蓋内病態と電気生理学的、脳血流の関連を過去に日本医科大学高度救命救急センターで加療した患者患者からのデータ集積と海外における補助検査の位置付について文献集積を行った。平成30年以降はフェーズ2に移行する予定で、上記で得られたデータを神経電気生理学的検査や脳血流の所見と脳死判定基準、特に脳幹反射(対光、角膜、前庭、眼球頭、咽頭反射など)との関連を検討する予定である。さらに、フェーズ3への移行に向けて現在までに得られた知見が脳死の病態との整合性、そして本邦脳死判定の補完する手法として位置づける適切性の検討を行うための礎となうような研究を行う。 平成30年以降は過去の研究で集積した高度意識障害例の補助検査結果の統計的手法を含めた解析や海外でのこれら補助検査の位置付けを総合的検討する。一方、脳死判定は救急・集中治療室という極めて電気的にノイズが多い環境で行うため、正確な補助検査が可能な高性能の刺激装置、およびその結果を解析するデータ解析装置、ソフトウエアが必要である。我々のデータ集積結果からそれらの統一化に向けた提言も合わせて行うことを目標とする。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度購入予定の機器について、研究の進捗状況を考慮し、次年度に入ってら購入することとしたこと。また旅費について、格安なチケット購入やメール等の活用により調査出張等が予定より少なかったことから次年度使用額が生じた。
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