研究実績の概要 |
膵癌は極めて予後不良の疾患であるが近年術前化学放射線照射療法の有効性が報告されてきている。さらなる治療成績向上のためには、術前治療効果判定のためのバイオマーカーの探索が課題の一つである。本研究期間内に、膵癌微小環境に発現するTertiary Lymphoid Organs (TLOs)に着目し臨床病理学的意義と患者予後に与える影響について検討してきた。免疫組織化学染色法を用いた解析では、術前治療群においてTLOs内に占めるCD8陽性Tリンパ球、PNAd陽性高内皮細静脈、CD163陽性マクロファージ、Ki-67陽性リンパ球の割合が高い一方で、PD-1陽性免疫抑制性リンパ球の割合が低くなることが分かった。生存解析では術前治療群患者手術先行群患者に比較して予後良好であることが示された。またサブグループ解析において術前治療群患者ではTLO/ tumor ratio高値群が低値群に比べて予後良好であることが示された。臨床病理学的因子にTLO/ tumor ratioを加えて全生存期間に対する多変量解析を施行したところリンパ節転移の有無(HR 0.029, 95%CI 0.003-0.163, p<0.001)、TLO/ tumor ratio(HR 0.056, 95%CI 0.006-0.297, p<0.001)が独立した予後良好因子であることを見出した。本研究結果からは術前化学放射線療法による腫瘍崩壊に伴い腫瘍関連抗原が腫瘍微小環境内に放出されることでマクロファージによる抗原提示、免疫担当細胞の増殖能の増加、CD8陽性細胞傷害性T細胞の活性化、リンパ球遊走のための高内皮細静脈の誘導が活性化される一方で、免疫逃避機構に関与するPD-1陽性リンパ球が抑制され、NAC群患者における腫瘍微小環境を予後良好なものに変化させる可能性があることが示唆される。
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