研究課題/領域番号 |
17K10541
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研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
伊藤 研一 信州大学, 学術研究院医学系, 教授 (10334905)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 甲状腺癌 / がんの進展 / 分子標的薬 / 抗がん剤耐性機構 |
研究実績の概要 |
臨床検体を用いて、マイクロアレイ法による網羅的遺伝子発現解析を施行し、甲状腺分化癌(乳頭癌)が未分化転化する過程で発現が変動している遺伝子の同定を試み、epithelial cell adhesion molecule (EpCAM)、aldehyde dehydrogenase 1 (ALDH1)、POZ (BTB) and AT hook containing zinc finger 1 (PATZ1)などを抽出し、in vitroでの解析を継続している。本年度は、近年、未分化癌を含む進行甲状腺癌に対して用いられるようになった分子標的薬(ソラフェニブ・レンバチニブ)に対する感受性の細胞株間の違いや、これらの薬剤に対する耐性機構にEpCAMやALDH1がどのように関与しているか、解析を行い、以下の結果を得た。 1)甲状腺乳頭癌細胞株(TPC-1、KTC-1)、濾胞癌細胞株(FRO、FTC-133、WRO)、未分化癌細胞株(ACT-1、OCUT-1F)で, ソラフェニブとレンバチニブの薬剤感受性を解析し, 50%増殖阻害濃度(IC50)を測定した。TPC-1は両薬剤に高い感受性を示したのに対し、FRO(BRAFV600E変異陽性)は、低い感受性(特にレンバチニブに対し)を示した。 2)上記の解析結果から、TPC-1とFROの2細胞株を用いて、ソラフェニブ、レンバチニブに約半年間暴露し、それぞれの薬剤に対する耐性株を樹立した。 3)樹立した耐性株でEpCAM、ALDH1などの発現を解析したところ、BRAF変異陰性の分化癌細胞TPC1ではALDH1発現が上昇したのに対し、BRAF変異陽性の未分化癌細胞FROではEpCAMとALDH1の発現の減少が認められた。分子標的薬に耐性を獲得した際に、細胞内に誘導されている変化が細胞株により異なり、それがBRAF変異の有無と関連する可能性が示唆され、未分化転化の際に発現が変動するEpCAMやALDH1が、これらの分子標的薬に対する感受性や耐性に関与している可能性が示唆された。 上記の結果を、第30回日本内分泌外科学会で報告し、BRAF変異を考慮した新規治療戦略に繋がる可能性を考え、解析を継続している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
われわれがこれまでに観察している甲状腺癌細胞での分子標的薬によるEpCAMやALDH1の変動は、これまでに報告がない新規知見であるため、さらに探求するための試行錯誤を現在行っている。
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今後の研究の推進方策 |
EpCAMやALDH1、PATZ1の甲状腺癌の発癌や進展に置ける役割の解析を続けると同時に、分子標的薬耐性との関連についても、in vitroでの解析を継続し、2020年春には、論文として報告したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究人員に欠員が生じ、補充までの数ヶ月間、研究が減速したため、次年度使用額が発生しました。現在、人員の補充ができており、研究を加速させる予定です。
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