甲状腺癌の手術検体で分化癌から未分化癌への移行が認められる検体から、マイクロダイセクション法を用いて異なる分化度の癌組織を採取し、網羅的遺伝子発現解析を施行し、未分化転化の過程で発現が大きく変動している遺伝子を複数同定した。現在までに、EpCAM (Epithelial cell adhesion molecule)の発現が未分化癌細胞の核で増加していることや、転写因子PATZ1 (POZ (BTB) and AT hook containing zinc finger 1)の発現低下が、濾胞上皮細胞の癌化および脱分化の進行に伴い認められ、PATZ1が甲状腺癌の悪性度に関与していることを観察した。しかし、「未分化転化」の鍵となる分子を同定するには至っておらず、転化の引き金となる遺伝子変異が存在するかどうかを調べるための解析を開始した。現在までに、4例の甲状腺未分化癌切除検体の「分化癌成分」と「未分化癌成分」の遺伝子変異と遺伝子発現の解析を並行して行い、「未分化転化」の過程で生じている変異の解析を行った。その結果、過去に未分化癌で起こっていることが報告されている遺伝子変異の多くが、「分化癌成分」で既に認められるにも関わらず、遺伝子発現は「分化癌成分」と「未分化癌成分」とで大きく異なる傾向があることを観察した。さらに、「未分化癌成分」で発現が変化している分子には、細胞接着や細胞骨格に関与する分子が含まれており、臨床で観察される未分化癌の高い悪性度との関連が推察された。
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