研究課題/領域番号 |
17K10547
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
下田 雅史 大阪大学, 医学系研究科, 助教 (30644455)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 腫瘍免疫 |
研究実績の概要 |
【組織学的検討】先に報告したように、高値群33例および低値群20例の乳癌患者を対象とした。まず乳癌組織における腫瘍浸潤免疫細胞について検討した。腫瘍浸潤リンパ球、B細胞(CD20陽性細胞)、形質細胞(IGKC陽性細胞)、細胞障害性T細胞 (CD8陽性細胞)、制御性T細胞(FOXP3陽性細胞)について、腫瘍内浸潤細胞数と腫瘍に接する細胞数の和(IT+AS)および腫瘍間質を含む全細胞数(total)を計測した。抗HER2自己抗体高値群では、IT+ASおよび totalのB細胞とIT+ASの形質細胞が低値群よりも有意に多かった。両群間で腫瘍におけるMHC class Iの発現に差は認められなかった。 【HER2遺伝子変異】腫瘍細胞のゲノム上でHER2にnon-synonymous mutationが生じ、それがネオ抗原となって抗HER2自己抗体が産生される可能性を検討した。高値群22例、低値群14例の腫瘍組織からDNAを抽出し、次世代シーケンサーでHER2のコード領域のtarget resequencingを行ない、高値群で5例(23%)、低値群で1例(7%)のnon-synonymous mutationを認めた。 【B細胞repertoire解析】腫瘍微小環境下で液性免疫に特異的免疫反応が生じているかを検討するために、B細胞のrepertoire解析を行った。凍結腫瘍組織よりRNAを抽出し、B cell receptor (BCR)のCDR3領域を次世代シーケンサーにて解析した。高値群、低値群ともBCR repertoireのskewが認められ、抗HER2自己抗体に関係なく乳癌組織では特異的な液性免疫系の活性化が生じていることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成30年度末の時点で、研究計画調書に記載した実験の大半が終了した。その点で、研究の進捗は順調である。抗HER2自己抗体と乳癌組織へのB細胞・形質細胞の浸潤に正の相関があり、HER2タンパクの変異が高値群で多い傾向にあった。そこで、今後もHER2自己抗体と乳癌の良好な予後との関連を探索していく予定である。
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今後の研究の推進方策 |
【エピトープの検討】HER2は糖タンパクである。また、抗HER2自己抗体の測定に用いたタンパク標品も糖鎖が付加されている。HER2の遺伝子変異に両群間で差がなかったこと、また、そもそもHER2陰性乳癌でも抗HER2自己抗体値と関連があることから、自己抗体がHER2の糖鎖を認識している可能性がある。そこで、HER2タンパク標品を脱糖鎖処理したものと未処理のものの間で自己抗体の反応性を比較し、糖鎖がエピトープとなっている可能性を検証する。 【濾胞性ヘルパーT細胞】当初の研究計画にある様にB細胞の成熟化と密接に関わる濾胞性ヘルパーT細胞(Tfh)と抗HER2自己抗体との関連を調べる。ヒト組織の免疫染色でTfhを同定する方法は現在確立されていないが、これまでの検討により、CD4とCXCR5の二重染色で良い感触を得ている。方法の確立に向けてさらに実験を重ねていく。手法を確立後、乳癌組織に見られる三次リンパ組織や所属リンパ節におけるTfhを同定し、抗HER2自己抗体高値群・低値群の間で違いがないかどうかを検討する。 【HER2自己抗体の抗腫瘍効果】当初の研究計画に従って、自己抗体が抗腫瘍効果を示すかどうかをin vitroのアッセイ系で調べる。
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