研究課題
【目的】乳癌患者における抗HER2自己抗体の存在が以前より報告されているが、その臨床的意義はまだ不明である。我々は浸潤性乳癌患者500例における血清中抗HER2自己抗体を測定し、血清中抗HER2自己抗体の濃度が高い症例の予後が良好であることを見出した。本研究では乳癌癌巣における微小環境を検討し、この自己抗体の免疫学的な意義について明らかにすることを目的とした。【方法】浸潤性乳癌患者500例のうち、健康人100名の抗HER2 自己抗体値の平均+/-2SDの範囲から外れる症例53例を抜き出し、抗HER2自己抗体値の高値群33例および低値群20例とした。乳癌手術検体を用い、各種腫瘍浸潤リンパ球の個数を評価した。腫瘍細胞における表面抗原などの発現を検討した。乳癌の二次リンパ組織である腋窩リンパ節における濾胞性CD4陽性リンパ球の個数も検討した。腫瘍組織の凍結標本を用い、腫瘍組織におけるB細胞受容体のレパトア解析を行った。腫瘍のHER2発現や体細胞変異についても検討した。【結果】抗HER2自己抗体高値群は低値群よりも腫瘍浸潤CD20陽性リンパ球(P < 0.001)、IGKC陽性リンパ球(P = 0.023)、CXCL13陽性リンパ球(P = 0.044)、腋窩リンパ節における濾胞性CD4陽性リンパ球(P = 0.026)が有意に多かった。腫瘍浸潤リンパ球において、高値群、低値群ともにB細胞受容体の多様性が低下していると考えられた。HER2の発現や体細胞変異の2群間における差は認められなかった。【考察】抗HER2自己抗体が高値の乳癌患者の腫瘍微小環境において、CXCL13の分泌や濾胞性ヘルパーT細胞によってB細胞や形質細胞が多数浸潤し、液性免疫系が活性化されていることが示唆された。本研究の成果は本年5月の国際学会で発表するほか、現在論文投稿中である。
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