研究課題
近年、温熱療法は直接的な抗腫瘍効果以外に、抗癌剤の効果増強や免疫賦活作用を有することから、低侵襲なコンビネーションテラピーとしての役割が注目を浴びている。温熱療法が免疫チェックポイント蛋白である PD-L1 の発現に及ぼす影響ついては未だ一定の見解はなく、そのメカニズムは明らかでない。免疫チェックポイント阻害薬に不応となった膵癌の臨床例で、免疫チェックポイント阻害薬と温熱治療を併用したところ、癌が急速に縮小した例を経験したことから、当初からの研究目的のひとつである、免疫チェックポイント阻害薬と温熱治療の併用による治療効果増強のメカニズムの解明について特に注力して研究を行った。その結果、臨床サンプルの癌組織では、温熱によって① MHC Class Iが維持されること、② CD8+T細胞が癌周囲に誘導されること、③ それに対して癌細胞がPD-L1を発現誘導してCD8+T細胞の攻撃に対抗することが明らかとなった。このような状況の中で抗PD-L1抗体を投与することは、細胞性免疫側にとって有利に働き、結果として、両者の併用は高い治療効果をもたらすことが分かった。最終年度にはPD-L1誘導のメカニズムは、CD8+T細胞が産生するインターフェロンガンマの刺激によって癌細胞内のSTAT1がリン酸化を受け、核内で 転写因子IRF1によるPD-L1 プロモーターの活性化が起き、PD-L1蛋白の産生が亢進することが分かった。マウスにMC38大腸癌細胞を移植し、温熱を加えると腫瘍細胞でphospho-STAT1, IRF1, PD-L1蛋白の発現亢進と腫瘍辺縁のCD8+T細胞の誘導がみられた。免疫チェックポイント阻害剤との併用では、腫瘍壊死面積の増加と、腫瘍辺縁のCD8+T細胞が腫瘍辺縁から内部に入り込もうとするまだらな浸潤像がみられ、免疫無効状態からの活性化が起きた可能性が考えられた。
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Gan To Kagaku Ryoho
巻: 46 ページ: 1605-1607