研究課題/領域番号 |
17K10549
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
角舎 学行 広島大学, 原爆放射線医科学研究所, 講師 (20609763)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | Wnt5a / 乳癌 / シグナル伝達経路 |
研究実績の概要 |
ER陽性乳癌細胞株でのWnt5aが誘導する遊走能亢進におけるALCAMが介するメカニズムを研究するため、内在性にWnt5aとALCAMを発現しているER陽性乳癌細胞株を複数調べた。それらの細胞のうち、MDA-MB-175-VII細胞においてWnt5aとALCAMの強い内在性発現がみられることを発見した。MDA-MB-175-VII細胞に対してWnt5aをノックダウンすると、ウエスタンブロットでALCAMの減少を認めた。次にMDA-MB-175-VII細胞の12時間後の遊走能を評価した。コントロール細胞としてWnt5aを発現しておらず、ALCAMを発現しているMDA-MB-361細胞を用いた。Wnt5aのノックダウンにより、遊走能はMDA-MB-175-VII細胞では減少し、MDA-MB-361細胞では変化しなかった。最後に、ALCAMの抑制がWnt5aノックダウンと同じように遊走能が低下するかどうか検討するための細胞遊走アッセイを行った。ALCAMノックダウンによりMDA-MB-175-VII細胞の12時間後の遊走能は有意に低下し、これらの結果からER陽性乳癌における細胞遊走はWnt5a-ALCAMシグナル経路を介して調整されていると推測された。我々の今回の研究の結論として、Wnt5aの発現はER陽性乳癌において高い悪性度と予後不良と関与している。Wnt5aはALCAMを誘導し乳癌細胞の遊走能を亢進させ、乳癌の悪性度を高めると考える。Wnt5aはER陽性乳癌において悪性度の予測因子、治療ターゲット、そして予後因子として有用である可能性がある。この結果は論文とした発表した(Oncotarget, 2018, in press.)
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでの研究のネックは、Wnt5aを過剰発現させた細胞を用いていたことであった。ウエスタンブロットで検出できる内因性Wnt5aを発現している乳癌培養細胞はいくつか報告されていたが、実際に購入して自分たちで検証してみると発現が検出できなかったことばかりで、他の研究グループはRT-PCRによるmRNAの定量で代用していた。今回、乳癌細胞株を新たに10種類以上購入して網羅的にウエスタンブロットで検証してみた結果、MDA-MB-175-VII細胞においてWnt5aとALCAMの強い内在性発現がみられることを発見し、内因性Wnt5aを観察することができるようになった。プラスミドによる過剰発現は、Wnt5aの上流のシグナルの影響を正常に受けていない可能性もあり、生理的なシグナル伝達経路の解析ができるようになった点は、当研究室にとってブレークスルーである。今後は、この細胞を用いて、Wnt5aの上流、下流シグナル伝達経路の観察をしながら、乳癌治療、治療抵抗性との関連を解析できるものと期待している。
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今後の研究の推進方策 |
これらの結果からER陽性乳癌における細胞遊走はWnt5a-ALCAMシグナル経路を介して調整されていると推測された。また、PIK3CA変異を伴ったER陽性乳癌ではWnt5a発現上昇を認めることが報告されているが、PIK3CA変異は約30%のER陽性乳癌においてみられ、治療抵抗性の原因となる。これらの報告からWnt5a はER陽性乳癌の悪性度や再発と関係しているのではないかと我々は推測する。しかし、ER陽性乳癌におけるPIK3CA変異よりPI3K/AKT/mTORシグナル経路が活性化されてWnt5a が発現するかは明らかにされていない。この問題は今後の研究が必要であると考える。我々の今回の研究の結論として、Wnt5aの発現はER陽性乳癌において高い悪性度と予後不良と関与している。Wnt5aはALCAMを誘導し乳癌細胞の遊走能を亢進させ、乳癌の悪性度を高めると考える。Wnt5aはER陽性乳癌において悪性度の予測因子、治療ターゲット、そして予後因子として有用である可能性がある。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度は手術症例や外来などが多く、実験のペースとしては多少、遅くなったため、使用した研究費がやや少なかった。次年度には、マウスを用いた研究なども開始する予定なので、今年度に残った金額を繰り越して研究を行う予定である。
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