研究実績の概要 |
Wnt5aの発現は胃癌、前立腺癌や悪性黒色腫、非小細胞肺癌においては悪性度や細胞浸潤、転移と関連していることが報告されているが、乳癌ではWnt5aの発現と悪性度や予後についての詳細な報告はない。我々は、浸潤性乳癌症例178例に対して免疫組織化学染色によって、Wnt5aの発現とestrogen receptor (ER) , human epidermal growth factor receptor -2 (HER-2)などの臨床病理学的因子との関連性を検討した。その結果、178例中、Wnt5a陽性乳癌は69例(39%)であり、Wnt5a発現とER陽性とは強く相関し(P<0.001)、ER陰性乳癌にはWnt5aはほとんど発現していなかった。ER陽性乳癌153例におけるWnt5a発現と悪性度の関係を解析したところ、リンパ節転移(P<0.001)、核グレード(P=0.004)、リンパ管侵襲(P=0.002)との間に有意な相関を認めた。無再発生存期間を比較すると、Wnt5a陽性乳癌はWnt5a陰性乳癌よりも短かった(P=0.036)。Wnt5aを恒常的に発現させたMCF7細胞(Wnt5a発現乳癌細胞)を作製し細胞遊走能を比較したところ、コントロール細胞と比較して有意に遊走能が亢進し、Wnt5aをノックダウンすると遊走能は低下した。そのメカニズムを明らかにするためDNAマイクロアレイを行い、Wnt5aによって発現が誘導される分子としてactivated leukocyte cell adhesion molecule (ALCAM)を同定した。乳癌病理検体においてもWnt5aとALCAMは共発現していた。以上のことから、Wnt5aは乳癌においてALCAMの発現を誘導し遊走能を亢進することで悪性度を増加させることが推測された。
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