本研究では、乳癌に対する軸索誘導因子SEMA3Fの効果を検証し、新たな分子標的としての可能性を明らかにする。乳癌においてはPI3K/Akt/mTOR経路の活性化がHER2分子標的薬ハーセプチンの耐性化機序に重要であり、SEMA3Fによるこの経路の遮断が効果的であると仮説を立て検討を行っている。 本年度においては、上皮間葉転換EMTの発現に関する検討を中心に行った。乳癌細胞MDA-MB-231にSEMA3Fを過剰発現する細胞では、親株細胞と比較して間葉系マーカーvimentinが低下していた(ウエスタンブロットにて確認)。さらに乳癌移植マウス(4T1細胞)から摘出した乳癌サンプルにおいてもvimentinが低下(コントロールに比して10%に低下)しており(免疫染色にて確認)、SEMA3Fが乳癌細胞のEMT制御に関与していることが示唆される結果となった。 一方で、SEMA3Fを大量合成するために無細胞蛋白質合成システムを使って合成を行った。しかし、全長SEMA3Fは不溶化分画に入ってしまい、精製が困難であったため、SEMA3Fをドメインごとに分割したもので合成を行った。しかし、これらも同様に不溶化分画に入ってしまったことから、合成試薬の組成を変えて再度検討を行う。
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