研究実績の概要 |
乳癌の術後薬物療法では、各患者のベースラインリスク(無治療であった場合の再発リスク)を正確に推定することでその患者に適した治療選択が可能となる。本研究の目的は、ベースラインリスクをより正確に推定するため、術後薬物療法が普及する前の1980年代以前の日本人乳癌患者を多数集積し、病理形態診断と分子病理診断を統合した新しい予測モデルを開発することである。 本年度は、がん研究会有明病院の医学系倫理審査委員会での承認を得たのち、1971年~1982年の乳癌手術症例 約2,300例の臨床情報(年齢、臨床症状、臨床的進行度、無再発期間、生存期間、死因など)の収集を完了させた。それと並行して、病理組織標本のアーカイブに保管されている各症例のHE標本を見直し、癌の病理組織形態についての情報(浸潤径、組織型、核分裂数、脈管侵襲、腫瘍浸潤リンパ球など)の収集を開始した。 さらに、保管されている病理組織ブロックを薄切し、サブタイプ分類に必要な免疫染色(エストロゲン受容体、プロゲステロン受容体、HER2、Ki67など)の評価を開始した。手術後35年以上を経過した組織検体であるが、染色状況に問題は見られていない。 また、次年度以降に行う予定の免疫チェックポイント分子の免疫染色(PD-1, PD-L1, TIM-3, LAG3など)の染色条件決定を行った。
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今後の研究の推進方策 |
まずは、症例コホートの病理組織形態およびサブタイプ分類についてのパラメータ入力を完成させる。同時に、腫瘍浸潤リンパ球のサブセットおよび免疫チェックポイント分子の発現などを探索する。次に、組織マイクロアレイを作成し、増殖制御分子(EGFR, cyclin D1, FoxA1など)、アポトーシス制御分子(p53, Bcl2など)などを効率的に評価する。それらの因子と患者予後(ベースラインリスク)との相関を探索する。
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