乳癌の術後薬物療法では、各患者のベースラインリスク(無治療であった場合の再発率)を正確に推定することで、その患者に適した治療選択が可能となる。日常診療では臨床病理学的因子からベースラインリスクが推定されているが、評価に悩むことも多い。また、既報告のリスク予測モデルは欧米人を対象としたもので、日本人を含むアジア人を対象としたモデルは作成されていない。そこで、日本人乳癌のベースラインリスクを明らかにすることを目的に、2つの研究を行った。 1)組織マイクロアレイ(TMA)作製手法の開発 下記2)では、多数の組織検体を薄切・染色する必要があった。そこで、腫瘍と免疫微小環境双方のマーカーを効率的に検索するために、TMA作製手法の開発を行った。乳癌検体248例を用いた解析によって、腫瘍辺縁から2 mm径コアを3ヶ所抜き取ったTMAでは、腫瘍と免疫微小環境双方のマーカーにおいて、代表ブロック切片と良好な一致度を示すことを明らかにした。この手法により、免疫染色標本作製の労力・費用を23分の1に削減した。 2)日本人乳癌ベースラインリスクの解明 日本人乳癌コホートを整備して、ベースラインリスクの解析を行った。対象は、癌研究会附属病院(現・がん研究会有明病院)で1979~82年に手術が行われ、術後薬物療法が未施行の日本人乳癌患者926例とした。癌が含まれる全ブロックのHE標本を再作製し、浸潤径、グレード、脈管浸潤、腫瘍浸潤リンパ球などを評価した。さらに、上記手法でTMAを作製し、ER、PgR、HER2、Ki67、PD-L1などを免疫染色で評価した。その結果、ベースラインリスク(遠隔再発率)は、コホート全体では10年で19%、20年で24%であった。また、ベースラインリスクは浸潤径(pT分類)、リンパ節転移個数(pN分類)、グレード、脈管浸潤、サブタイプ(ER、PgR、HER2、Ki67)、腫瘍浸潤リンパ球量などにより層別化が可能であった。
|