根本的ながん治療を目指す場合、個々の患者の「がん組織」に応じた治療薬の適切な選択が望まれる。しかし、現在研究分野で標準的に用いられているのは固定された臨床の組織検体もしくは細胞株と呼ばれる増殖能を獲得した比較的均一ながん細胞集団である。この実臨床と基礎研究との乖離は、対象とするマテリアルの違いよるものと考えられることから、実際の個体内におけるがんのミニチュアモデルとなるような多様性をもつ生きたがん組織を用いることができないかと考えた。このがんのミニチュアモデル(=in vitroがん組織モデル)となりえるものとして、臨床のがん組織に近い性質を保持している可能性の高い初代培養細胞が挙げられる。 本研究ではこの初代培養細胞として、in vitroがん組織モデルを構築し、これを様々ながん腫へ適応をひろげて検討を行った。胃がん、膵がん、大腸がん、乳がん、小児腫瘍について検討した。個々の臓器に由来する環境因子を加味した培養方法の検討を行い、樹立効率を評価した。培養細胞は免疫不全マウスへの移植モデルも検討した。樹立したin vitroがんモデルは増殖能にばらつきがあるが、形態学的に、また遺伝子発現解析結果からも元の腫瘍の性質を反映しているものと考えられた。研究から安定的に増殖を保つ細胞を維持することが可能となり、培養細胞として薬剤感受性試験結果について再現性を持って行うこと、臨床での抗がん剤の治療効果と比較検討することが可能となり、ex vivoで治療効果を予測するモデルとして臨床応用が期待できるものと考える。in vitroの結果を個々の患者の治療薬選択や開発につなげることができると期待される。
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