研究課題
減量手術は,胃を縮小する手術と,消化管のバイパスを付加した手術に分けられるが、後者で糖代謝改善効果が高いことから、我々はバイパス術の主体である十二指腸空腸バイパス(duodenal-jejunal bypass: DJB)術後の糖代謝改善効果について研究を行ってきた。これまでの研究で我々は、DJB術後の腸管のうち胆汁や膵液といった消化液のみが通過する胆膵路(bilio-pancreatic limb: BP-limb)の長さが、DJB術後の糖代謝改善および血中胆汁酸値上昇に重要であること、BP-limbを切除するとこれらの効果がキャンセルされることを見出した。しかし、DJB術後の血中胆汁酸値上昇機序や、BP-limbの機能、胆汁酸がDJB術後の代謝に与える影響については明らかになっていない。そこで、プロテオーム解析による肝組織中のタンパク発現プロファイルの解析を行うことによって、DJB術後の血中胆汁酸値上昇機序、Metabolic surgery の体重減少効果、糖代謝改善効果に関する機序を解明することを目的とした。DJB術後の代謝改善機序について、肝組織のプロテオーム解析にて検討を行ったところ、1372のタンパク質が同定され、発現比率>1.5x・<0.5x、変動係数<30%、有意差あり(p<0.05)でタンパク質を21個に絞り込んだ。この中で、DJB群で発現が亢進していたCarboxylesterase 1d(Ces1d)に着目した。Carboxylesteraseは主に肝や小腸などに発現し、中性脂肪を加水分解するエステラーゼであるが、胆汁酸がtargetとする核内受容体FXRの直接のターゲット遺伝子であることが報告されている。Ces1は主に肝に発現し、中性脂肪を分解し遊離脂肪酸を増やすことで、PPARαの活性を亢進させ、インスリン感受性を改善することが報告されている。DJB術後はBP-limbの長さに比例して肝組織中の胆汁酸濃度も上昇することから、Ces1d発現の亢進がDJB術後の代謝改善に寄与している可能性が示唆された。
すべて 2019
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (4件) (うち国際学会 3件、 招待講演 1件)
Obesity surgery
巻: 29(6) ページ: 1901-1910
10.1007/s11695-019-03790-y.