研究課題
本研究は「管腔外から認識可能な蛍光消化管クリップの開発と臨床応用」を目的としている。これまで、新規有機系蛍光物質PIDを担持させた消化管クリップを開発し、基礎実験、動物実験を行ってきた。このクリップのもつ蛍光特性や、消化管を透過した蛍光シグナルの検出について、その強度、時間経過、検出深度などを明らかにしている。2020年度はコロナ禍で動物実験が大きく制限されたが、2021年度は2020年度の実験計画を踏まえ、以下のような成果を得た。1.消化液との影響:より強い蛍光で効率よくシグナルを発せさせる目的で、担持させるPIDをシート状に改良し、巻き付ける形のものを試作した。この新クリップは、胃液を想定した強酸、腸液を想定した弱アルカリ液を触れさせてもPID蛍光特性はほとんど影響を受けないことが確認できた。2.急性毒性:PIDクリップの消化管粘膜への影響、毒性についての実験を引き続き行った。ブタにおける毒性は評価法が難しいが、少なくとも急性毒性はなく、実臨床に即した前日クリッピングは問題なく施行可能と判断できた。クリッピングを行った消化管粘膜の病理組織学的検討でも、特異的な粘膜変化を認めなかった。臨床応用を念頭にした場合、前述のように術前にクリッピングを行うことになるため、慢性毒性は問題にならないと判断するが、今後の検討は必要である。3.蛍光シグナルの改善:一方、大動物実験ではシート型新規クリップの蛍光強度は、従来型に比べて大きく凌駕するものではなかった。PIDの総量と到達する励起光の強度が蛍光シグナルの強さを規定していると思われ、引き続き担持させ得るPIDの量を大きくする形状の工夫が必要と思われた。