研究課題/領域番号 |
17K10579
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研究機関 | 新潟大学 |
研究代表者 |
油座 築 新潟大学, 医歯学総合病院, 医員 (00745565)
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研究分担者 |
永橋 昌幸 新潟大学, 医歯学総合病院, 研究准教授 (30743918)
若井 俊文 新潟大学, 医歯学系, 教授 (50372470)
羽入 隆晃 新潟大学, 医歯学総合病院, 助教 (50719705)
市川 寛 新潟大学, 医歯学系, 助教 (50721875)
小杉 伸一 新潟大学, 医歯学総合病院, 特任教授 (90401736)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 胃癌 / アクチビン2型受容体 / マイクロサテライト不安定 / Hypermutation / 次世代シークエンサー / CRISPR/Cas9 |
研究実績の概要 |
アクチビンは、TGF-βスーパーファミリーに属する分子の一つで、細胞の分化、アポトーシス、増殖抑制などに関与するといわれるが、胃癌におけるアクチビンおよびその受容体の働きは未だ不明である。また、アクチビン2型受容体(ACVR2A)遺伝子変異は、大腸癌ではマイクロサテライト不安定性(MSI)との関連が報告されているが胃癌ではまだ報告は少ない。申請者は、パイロット研究の結果から、「胃癌においてACVR2A遺伝子変異はMSIに伴って生じやすく、その発癌メカニズムに関与する一方、進行期においてはアクチビンシグナルの欠損により癌の浸潤・転移能が得られにくいため、ACVR2A遺伝子変異症例は予後良好となる」と仮説を立て、本研究を企画した。本研究の目的は,「胃癌におけるACVR2A遺伝子変異のMSIや予後予測に関するバイオマーカーとしての可能性を探索、その臨床的意義を明らかにし、ACVR2A遺伝子異常が引き起こすシグナル伝達機構と癌細胞の生物学的特徴を解明すること」である。平成29年度は、パイロット研究で解析を行った50例に加え、胃癌74例の解析を進め、合計124例の遺伝子解析を行い、臨床病理学的因子との関連性を検討した。その結果、胃癌におけるACVR2A遺伝子変異頻度は8.1%であること、ACVR2A遺伝子変異症例は全てMSI-H症例であること、ACVR2A遺伝子変異は女性に多いこと、胃の下部に発生した癌に多いこと、ミスマッチ修復遺伝子の一つであるPMS2遺伝子変異と関連があることを明らかにした。また有意差はなかったが、ACVR2A遺伝子変異症例 は遺伝子変異が無い症例と比較し予後良好な可能性が示唆された。H30年度はACVR2A遺伝子異常が引き起こす伝達機構と癌細胞の生物学的特徴を解明することに注力した。本臨床研究の成果を国際学会で発表し、専門科学雑誌に現在投稿中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成30年度は主に課題研究Aについて研究推進し、課題研究Bを開始、計画通りに進行している。以下に進捗状況の詳細を記載する。 課題研究A 胃癌患者手術切除検体におけるアクチビン2型受容体(ACVR2A)遺伝子変異の検索とその臨床像の解明:胃癌患者124例を対象とし、次世代シークエンサーによりACVR2A遺伝子変異について解析し、マイクロサテライト不安定性やHypermutationとの関連、臨床病理学的因子や遠隔成績との比較検討を行い、胃癌におけるACVR2A遺伝子変異の臨床像を明らかにした。 課題研究B ACVR2A遺伝子異常が引き起こすシグナル伝達機構と癌細胞の生物学的特徴の解明(in vitro model):CRISPR/Cas9遺伝子編集技術を用いて、ヒト胃癌由来細胞株を用い、ACVR2A遺伝子のノックアウト細胞を作製した。作製した細胞をもとに実験を行い、ACVR2Aノックアウト細胞は変異の無い細胞に比して、増殖能・遊走能・浸潤能が低いことがわかった。以上の研究の結果を国際学会で発表し、専門科学雑誌に現在投稿中である。
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今後の研究の推進方策 |
平成31年度は課題研究A、Bについて研究を論文化し、研究を総括する。。 課題研究A 胃癌患者手術切除検体におけるアクチビン2型受容体(ACVR2A)遺伝子変異の検索とその臨床像の解明:遺伝子解析結果を踏まえて、胃癌組織ににおけるアクチビン2型受容体の発現を免疫組織化学によるタンパク分析を行ったが、ACVR2Aは染め分けられなかった。MSIとACVR2A遺伝子変異は強く関連しており、また、ACVR2A遺伝子変異のある患者の臨床像はMSI患者の一般的に報告されている臨床像と類似している点がいくつかあり、ACVR2A遺伝子変異が、MSI胃癌の臨床像を形作る一因の可能性であることが示唆された。 課題研究B ACVR2A遺伝子異常が引き起こすシグナル伝達機構と癌細胞の生物学的特徴の解明(in vitro model):CRISPR/Cas9遺伝子編集技術を用いた、ヒト胃癌由来細胞株のACVR2A遺伝子ノックアウト細胞を確立した。作製した細胞をもとに実験を行い、ACVR2Aノックアウト細胞は変異の無い細胞に比して、増殖能・遊走能・浸潤能が低いことがわかった。ACVR2AはTGF-βファミリーの一因であり、TGF-βファミリーは癌の発育・進展の過程で上皮間葉転換に関わっていることが知られている。本実験でACVR2A遺伝子変異により増殖能・遊走能・浸潤能が低下した原因としては、ACVR2A遺伝子変異が下流のシグナル伝達を抑え、上皮間葉転換が妨げられたことが考えられた。またACVR2A遺伝子変異のある胃癌患者は変異の無い患者に比べ予後が良い可能性があり、これもACVR2A遺伝子変異により上皮間葉転換能が妨げられ、癌細胞の浸潤・転移能が低下したことによる差ではないかと推測された。
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次年度使用額が生じた理由 |
調達方法の工夫などにより、当初計画より経費の節約ができたため。
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