研究課題
近年、抗癌剤・放射線療法など各種術前治療を含めた集学的治療の積極的な導入にも関わらず、食道癌の治療成績はいまだ不良である。その理由のひとつに治療成績向上が期待される術前治療効果は一律ではないことが挙げられ、化学療法や放射線療法などの効果予測が可能となるバイオマーカーの同定が望まれる。我々は、食道癌化学療法に対してシスプラチンおよび5FUの感受性及び耐性の細胞株をそれぞれ用い、キャピラリー電気泳動・飛行時間型質量分析計(CE・TOFMS)を用いて、網羅的に抗癌剤薬剤応答に関する候補代謝物候補を探索した。シスプラチン耐性に関して、解糖系・クエン酸経路・およびアミノ酸レベルにおいて感受性株と耐性株の細胞内レベルに違いが認められた。とくにアミノ酸について、カチオン性代謝物に着目して比較解析を行った結果、およそ10の代謝物でシスプラチン耐性株において細胞内レベルが低下していた。また、5FU耐性に関しても同様に、解糖系・クエン酸経路・およびアミノ酸レベルにおいて感受性株と耐性株の細胞内レベルに違いが認められた。特にポリアミン代謝物・グルタチオン代謝物が5FU耐性株において細胞内レベルが低下していた。抗癌剤耐性株と耐性獲得前の細胞内メタボロームを比較することにより、これまでに論じられることの少なかった、抗癌剤(シスプラチンおよび5FU)耐性化に伴う細胞内代謝変化を明らかにすることができた。本研究で得られた知見は、食道癌の抗癌剤耐性化メカニズム解明の一助となり得る。