研究課題
本研究では、消化器癌細胞株を用いたEMT蛍光イメージング技術を開発し、EMTを誘導する微小環境とその分子メカニズムを解明し、EMTを阻害する抗転移薬剤の候補を同定してその治療効果を検証する事を目的とした。2019年度は、生体内の原発巣や転移巣における癌細胞のEMT状態を観察するために、EMT依存的に赤色蛍光タンパク質(RFP)を発現するヒト大腸癌細胞株(HCT116)に緑色蛍光タンパク質(GFP)を恒常的に発現するように遺伝子導入した細胞株を作製した。このHCT116細胞株をヌードマウスの直腸、脾臓、腹腔内に移植して移植後1週間、3週間に直腸腫瘍、肝転移腫瘍、腹膜播種腫瘍を免疫組織学的に解析した。GFP陽性直腸腫瘍の浸潤部にRFP陽性癌細胞を観察し、移植後1週間、3週間のGFP陽性肝転移腫瘍にモザイク状にRFP陽性癌細胞を観察した。RFP陽性癌細胞の周囲にはIL-1beta陽性マクロファージの存在を確認した。移植後1週間のGFP陽性腹膜播種腫瘍にもモザイク状にRFP陽性癌細胞を観察した。次に、昨年度開発したEMT可視化ヒト大腸癌細胞株の薬剤スクリーニング系を用いて8種類の抗炎症薬剤の中からEMT阻害効果を示す3種類のサリチル酸系薬剤(アスピリン、サリチル酸ナトリウム、サリチル酸)を同定した。ルシフェラーゼ発現HCT116細胞株を腹腔内に移植した腹膜播種モデルを用いて、移植1週間前からアスピリンを予防投与した場合に腹膜播種の形成が有意に抑制されることを確認した。以上の研究成果について、EMT可視化ヒト大腸癌細胞株の作製と生体内腫瘍におけるEMT癌細胞と炎症性マクロファージの関係をまとめた研究成果は、Scientific Reportsに論文発表した。また、EMT阻害効果を示すアスピリンの予防投与による腹膜播種の抑制効果の研究成果は、学会発表を行った。
すべて 2019
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (2件)
Scientific Reports
巻: 9 ページ: 16378
10.1038/s41598-019-52816-z