研究課題
自己細胞からなる人工臓器による再生医療は理想的であり、現在様々な臓器に関して研究が行われている。また、近年バイオ3Dプリンターが登場してきており、tissue engineeringの一つの手法として注目を集めている。我々は、細胞凝集によるspheroidを用いて、構造体を立体化することによって、Scaffoldを使用しない理想的な臓器の作製が可能な、バイオ3Dプリンターを用いて、再生医療の一つとして、線維芽細胞や間葉系幹細胞を用いた基本構造の構築とそれを応用した人工臓器の作製にチャレンジしてきた。人工食道を用いた食道の再生医療は、成人、小児双方において、現治療の代替医療として期待される重要な新規アプローチとなりうる。これを治療に用いることができれば、食道疾患治療において、画期的な変革をもたらすことができると考えられる。これまで我々は、Scaffoldのない管腔構造体の作製実験において、気管様構造体では、気道への移植に成功している。本研究では、これまでのバイオ3Dプリンティング技術を用いて、体組織細胞、幹細胞から、Scaffold-freeの人工食道の構造体を作製する。これを小動物から大動物へ移植することで、生体での生着、適合性、強度の評価を行う。さらには、大動物へ移植可能な大型の構造体の作製およびこの三次元を構成するメカニズムの解明をおこなった。具体的には、1.人工食道を作成するための最適な細胞ソースの選択・組み合わせの解明、2.小動物を用いた移植にて、生体への生着、適合、力学的強度の評価を行ってきた。
2: おおむね順調に進展している
人工食道を作成するための最適な細胞ソースとして、ヒト線維芽細胞、ヒト食道平滑筋細胞、間葉系幹細胞、ヒト臍帯内皮細胞を任意の割合で配合し、適切な人工食道を作成するための条件を検討した。機械的強度の解析結果としては、ヒト食道平滑筋細胞を用いることにより、適切な強度と弾性を兼ね備えた人工食道としての三次元構造体が作成された。組織学的な検討については、食道平滑筋細胞による筋層様の構造が認められ、食道に近い形態を呈していた。collagenの産生量についても、最も多い条件を設定しえた。続いて、これらの構造体を用いてラット食道への移植実験を行った。食道移植の手技や手術方法の確立のために充分な検討を行い、結果としては2か月以上の生存を見ている。体重の検討では、術後一時的に体重減少を示すものの、その後の増加が確認され、また組織学的な移植人工食道の検討として、nativeの食道上皮が構造体内腔に進展してきている所見を認めた。本研究結果を英文雑誌へと投稿し、受理された。(Takeoka Y, Matsumoto K, Taniguchi D, et al. Regeneration of esophagus using a scaffold-free biomimetic structure created with bio-three-dimensional printing. PLoS One. 2019 Mar 8;14)(3):e0211339.
今後に関しては、臍帯静脈内皮細胞、ヒト間葉系幹細胞の代替として、iPS細胞から分化させた血管内皮細胞および脂肪肝細胞の検討や、自家移植に向けた、代替細胞ソースを検討する。また、組織ライブイメージングを用いた細胞の分化、3次元構成のメカニズム解析のため、幹細胞、上皮細胞、iPS細胞にGFP遺伝子導入を行い、レンチウイルスを用いてGFP遺伝子を導入する。この細胞を用いて、上記の食道様構造体を作製することで、構造体内での細胞の状態を評価する。なお、細胞の単離については近交系ラットを用い、フローサイトメトリーによるpurificationなどを検討している。細胞の単離はすでに一部成功しており、今後も継続していく予定である。さらには、GFP遺伝子導入された構造体を移植し、ex vivo、in vivoにても解析を行う。大動物への移植が可能な大きさの人工食道作製、組織学的、力学的評価も考えており、大動物実験モデルとして、ブタからPrimary細胞を採取し、食道上皮細胞、線維芽細胞、血管内皮細胞、間葉系幹細胞、平滑筋細胞を採取し、バイオ3Dプリンターによって三次元構造体を作成し、これらの評価をさらに進めていく予定である。
研究費を効率的に使用した結果、次年度使用が生じた。これまでの実験で行うことができなかった、遺伝子導入細胞の作成、培養、三次元構造体作成のための資金が必要である。これらの解析のための培地、抗体などの試薬関連のために助成金を使用する。また、大動物モデルを用いた実験計画もあり、これらの動物の購入、飼育などにも助成金を使用していく予定である。
すべて 2019
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件)
PLoS One.
巻: 14 ページ: e0211339
10.1371/journal.pone.0211339.