研究課題
平成29年度は、まずヒト食道癌組織におけるTRPV2の発現レベルを解析した。扁平上皮癌組織において、細胞膜・細胞質にTRPV2発現が確認された。TRPV2発現をスコア化し、臨床症例を二群化して比較したところ、TRPV2高発現群の予後が有意に不良であった。次に、種々のヒト食道癌細胞株におけるTRPV2発現を解析し、TE15、KYSE170におけるTRPV2の高発現を確認した。両細胞株において、TRPV2 siRNAをトランスフェクションしたところ、細胞増殖抑制・アポトーシス増強効果を認めた。また、TRPV2 siRNAの導入により、細胞遊走・浸潤能が抑制されることを確認した。現在、TRPV2 siRNAを導入した細胞株の遺伝子発現変化をmicroarrayにより網羅的に解析している。また、癌細胞株TE8から癌幹細胞を抽出培養し、網羅的遺伝子発現解析からTRPV2の高発現を見出し、その阻害剤トラニラストの癌幹細胞増殖抑制効果についてまとめ、英文論文として報告した(J Gastroenterol. 2018)。同様の現象を他の細胞株でも再確認するため、TE4からの癌幹細胞抽出・培養に成功し、その遺伝子発現変化をmicroarrayにより網羅的に解析している。一方で、食道癌におけるAE1(Oncotarget.2017)、NHE1(Oncotarget.2017)、TRPM7 (Anticancer Res.2017)などのイオン輸送体の機能解析・臨床病理学的意義を解明した。同時に、ヒト胃癌細胞株における低浸透圧殺細胞効果が、カリウムチャネル阻害剤により調節性容積減少(RVD)の抑制を介して増強されることを解明した(Oncotarget.2017)。また、肝細胞癌において、温度刺激が水チャネルAQP5の発現局在・細胞内代謝に与える影響を解明した(Int J Oncol.2017)。
2: おおむね順調に進展している
当初の研究計画のうち、ヒト食道癌組織におけるCa2+透過性陽イオンチャネルTRPV2の発現解析、癌細胞におけるTRPV2を介する細胞周期・アポトーシス・細胞浸潤制御機構の解明、TE8由来癌幹細胞におけるTRPV2を介する癌幹細胞特異的な増殖抑制効果の検討、新たな癌細胞株TE4からの癌幹細胞抽出・培養などの基礎実験は、ほぼ終了している。また、消化器癌における種々のイオン輸送体・pH制御因子の機能解析も進展しており、研究成果は既に国内外の学会で発表し、英文雑誌にも投稿・掲載されている。現在、TRPV2 siRNAを導入した細胞株や、新たに樹立したTE4由来癌幹細胞株の遺伝子発現変化をmicroarrayにより網羅的に解析しており、研究目的・研究計画はおおむね順調に進展していると考える。
次年度以降は、術前化学療法施行症例を中心に食道組織内TRPV2・癌幹細胞マーカー発現を同様に解析し、化学療法の組織学的効果との相関について検討する。また、新たに作製した癌幹細胞を解析し、特異的に発現するイオン輸送体を同定する。更に、各種抗癌剤(5FU、シスプラチン、ドセタキセル)による抗腫瘍効果が、TRPV2阻害剤トラニラストの併用により増強されるか否かを解析する。また、癌幹細胞におけるTRPV2・イオン動態を介する細胞周期・アポトーシス制御機構解明を進めるとともに、in vivoにおけるTRPV2制御による皮下腫瘍成長抑制効果、及び抗癌剤併用効果について検討する予定である。
すべて 2018 2017
すべて 雑誌論文 (12件) (うち査読あり 12件、 オープンアクセス 3件) 学会発表 (12件)
Journal of Gastroenterology
巻: 53 ページ: 197~207
10.1007/s00535-017-1338-x
Oncotarget
巻: 8 ページ: 17921~17935
10.18632/oncotarget.14900
The Journal of Physiological Sciences
巻: 67 ページ: 353~360
10.1007/s12576-017-0528-x
巻: 8 ページ: 2209~2223
10.18632/oncotarget.13645
巻: 8 ページ: 101394~101405
10.18632/oncotarget.20736
International Journal of Oncology
巻: 50 ページ: 1857~1867
10.3892/ijo.2017.3940
Anticancer Research
巻: 37 ページ: 1161~1168
10.21873/anticanres.11429
Digestive Diseases and Sciences
巻: 62 ページ: 652~659
10.1007/s10620-016-4430-9
Cellular Physiology and Biochemistry
巻: 42 ページ: 68~80
10.1159/000477116
Esophagus
巻: 14 ページ: 138~145
10.1007/s10388-016-0557-1
Anticancer Res.
巻: 37 ページ: 5301~5307
巻: 37 ページ: 2019~2023