研究課題/領域番号 |
17K10606
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研究機関 | 自治医科大学 |
研究代表者 |
細谷 好則 自治医科大学, 医学部, 教授 (30275698)
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研究分担者 |
北山 丈二 自治医科大学, 医学部, 教授 (20251308)
山口 博紀 自治医科大学, 医学部, 教授 (20376445)
大澤 英之 自治医科大学, 医学部, 講師 (60458271)
倉科 憲太郎 自治医科大学, 医学部, 講師 (70382900)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 好中球 / 細胞外トラップ / 腹膜転移 / 胃癌 / 接着 |
研究実績の概要 |
消化器癌で開腹手術を受けた患者より閉腹直前の洗浄腹水を採取、Ficoll 液にて遠心分離を行うと、多量の低比重好中球(Low density granulocytes, LDG)が腹腔内に滲出してきていることを見出した。このLDGを分離、数時間培養したのち、細胞外DNAに特異的に結合するSYTOXを添加すると、培養後1~2時間の培養で多量の好中球細胞外トラップ(NETs)を産生し、その後次第に退縮することを確認した。In vitroの接着実験にて、ヒト胃癌細胞NUGC, MKN45, OCUM-1が選択的にNETsに接着し、その後に活発に増殖することが確認されたが、DNAseで前処置することでNETsを分解すると、これらの癌細胞の接着は強く抑制された。またこのヒト腹腔洗浄液由来LDGをMKN45と共にヌードマウスに腹腔内投与すると、投与後4週目で形成される播種結節の数は有意に増加し、その効果はDNAseを投与することで抑制さた。 また、ヒトの手術後の大網組織の表面には、NETs様の構造物が存在することも確認できた。これらの結果から、開腹手術後の腹膜表面にはLDG由来NETsが多量に存在し、術中に散布された癌細胞を効率的に捕捉することによって播種の成立を促進しており、これが術後の腹膜再発に関与しており、閉腹時のDNAseの腹腔内投与が播種予防につながる可能性を示唆するデータが得られた。 さらにこの好中球上には免疫抑制分子PD-L1が発現していることが判明し、開腹術後の腹腔内におけるTリンパ球を介した局所免疫応答を抑制し、播種再発を促進している可能性があることを示唆するが得られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
開腹術後のヒト腹腔内液由来の好中球が好中球細胞外トラップ(NET)を産生し、浮遊癌細胞を捕捉し、播種の成立をアシストするのではないか?という仮説を証明するIn vitroおよびIn vivoのデータが得られた。また、NETsの阻害剤であるDNAseがこれらの実験系で播種抑制効果を持つことを示唆する実験データも得られたため、初年度に予定していた以上の成果が得られたと考えられる。また、これらの好中球が免疫チェックポイント分子PD-L1が発現していることも解り、手術後の腹腔内の免疫抑制の機序につながる可能性があるデータも得られ、腹膜播種の分子メカニズムに関する新たな知見が得られつつある。
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今後の研究の推進方策 |
二年目までに、滲出好中球中のヒトLDGによって腹膜上に形成されたNETsが浮遊がん細胞を効率的に捕捉し、In vivoでの転移を促進することは確認できたが、それ以外の機序も存在すると考えられる。そこで、最終年度はNETsと癌細胞、免疫細胞およびエクソソームとの相互作用についてより広い視野から検討を加える。すなわち、NETsは好中球エラスターゼなどの酵素を濃縮し、近傍の細菌を障害する作用があることが知られているが、癌細胞や中皮細胞に対して細胞障害活性を示すか?あるいはマトリクス分解酵素を濃縮することにより接着した癌細胞の浸潤に促進する方向に働くのか?をIn vitroで明らかにする。また、腹腔内液には多量のエクソソームが存在するが、これがNETsに捕捉されるか? NETs上に濃縮されたエクソソームが癌細胞、免疫細胞の機能に対してどのような影響を与えるか?を明らかにすることを試みる。さらに、LDGが発現した免疫チェックポイント分子PD-L1がNETs上でどのような動態を示すか?についても検討を加えたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
動物実験に時間を要してしまい、予算との差額が生じた。 未使用分については、H31年度消耗品費として使用予定である。
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