スキルス胃癌特有の細胞増殖機構解明から特異的な細胞内シグナル伝達系の活性化を明らかにし、阻害薬(MEKならびにmTOR)を用いたin vitroならびにin vivoの検討からその有用性を確認し2018年特許申請、2019年にはPCT出願を行ってきた。 スキルス胃癌細胞の増殖には、間質線維芽細胞由来パラクリンHGFが特異的に関与する。本最終年度は、高度増生する線維芽細胞のbiologyにスポットを当て研究を進めてきた。 その結果、①線維芽細胞増殖能が最も顕著なHB-EGFは、amphiregulin刺激でマクロファージより産生誘導されることが判明した。②マクロファージの腫瘍局所の豊富な集積とHB-EGFの高産生が蛍光ダブル染色法による免疫染色により明らかとなった。③びまん性胃癌細胞からのAmphiregulin産生は、線維芽細胞由来HGF刺激により10倍産生が誘導された。④腫瘍局所へのマクロファージの遊走集積は、CCR2/CCL2 axisの関与が想定された。すなわち、増生する線維芽細胞は豊富なMCP-1(CCL2)を産生誘導し、そのレセプターであるCCR2を高発現するマクロファージの腫瘍局所に集積する重要な機序が明らかとなった。一方、スキルス胃癌細胞からのMCP-1(CCL2)分子の産生誘導は認められなかった。 以上の研究結果から、スキルス胃癌特有の病態形成には、スキルス胃癌特有の線維芽細胞が豊富なパラクリンHGF産生から癌細胞上のMET受容体を介したシグナル活性化が主に関与し、細胞内シグナル経路MAPK/MEK系とPI3K/mTOR系を活性化、これら経路は相互に補完しあうことも判明した。本病態特有の線維芽細胞高度増生にマクロファージと線維芽細胞とのCCR2/CCL2 axisを介した局所集積・活性化が本病態形成に重要な役割を果たすことが明らかとなった。
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