研究課題/領域番号 |
17K10611
|
研究機関 | 京都産業大学 |
研究代表者 |
瀬尾 美鈴 京都産業大学, 総合生命科学部, 教授 (60211223)
|
研究分担者 |
上田 修吾 公益財団法人田附興風会, 医学研究所 第1研究部, 研究主幹 (80372580)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
|
キーワード | 食道がん / FGFR3IIIc / スプライシング / ドセタキセル / フルオロウラシル / 抗がん剤耐性 / 全生存期間 / リン酸化型AKT |
研究実績の概要 |
目的 日本における食道がん患者の約90%以上が扁平上皮がんである。平成29年度の研究を継続し、食道がん患者試料をもちいて維芽細胞増殖因子受容体3の選択的スプライシングで生じるIIIcアイソフォーム(FGFR3IIIc)の発現量と食道がんのステージ、リンパ節転移の有無、抗がん剤感受性、生存情報などの関連について検討した。さらに、食道がん細胞株を用いた実験でFGFR3IIIc発現による抗がん剤耐性の獲得とシグナル伝達経路の活性化の関係について解析した。 結果および考察 FGFR3IIIcに対する特異的ポリクローナル抗体を用いて、免疫組織染色を行った。食道がん患者の癌部におけるFGFR3IIIcの発現量は非癌部と比較して有意に高かった(中央値食道がん部位=100.7, 食道正常部位=72.4, P=0.00034)。術前術後化学療法無しの患者では、FGFR3IIIcの発現比(がん部における発現量/非がん部における発現量)が平均値より高いと全生存期間が有意に短くなった(P=0.01)。以上の結果から、FGFR3IIIcの発現上昇と食道がん悪性化に何らかの関係があることが示された。食道がん細胞株KYSE220を用いてFGFR3IIIcを強制発現すると、ドセタキセルに対するIC50が19.8 nMから67.6 nMに約3.4倍上昇し、フルオロウラシルに対するIC50も223μMから712μMに3.2倍上昇していた。また、FGFR3IIIcの発現上昇により、リン酸化型Aktは増加したが、リン酸化型MAPK、リン酸化型PLCγは増加していなかった。FGFR3IIIc発現上昇は、食道がん患者の全生存期間の短縮と抗がん剤耐性獲得に関わっていると考えられる。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
食道がん患者検体におけるFGFR3IIIc発現上昇と、患者の全生存期間が負の相関を示すことがわかった。 免疫組織化学染色において、特異的にFGFR3IIIcを検出することが出来る抗体を作成し、 各ステージの食道がん組織および隣接した正常上皮組織の組織切片染色とFGFR3IIIc特異的な発現を調べることができた。食道がん患者のFGFR3IIIc発現レベルと患者の治療経過データの解析から、FGFR3IIIcの早期ガンにおける発現上昇が食道がん患者の全生存期間と負の相関を示すことから、食道がん患者の予後を推測できるマーカーとなり得ることがわかった。
|
今後の研究の推進方策 |
これまでの研究で、食道がんにおけるFGFR3IIIcの発現上昇が食道がん患者の全生存期間を短くすること、また、抗がん剤耐性を獲得させることを明らかにした。本研究の最終年度にあたり、FGFR3IIIcの発現上昇がなぜ食道がん患者の全生存期間を短縮させるのか、さらに、FGFR3IIIcの発現上昇のメカニズムの解明に集中する。 FGFR3IIIc発現が食道がん細胞の転移と関係があるか、in vitroアッセイで明らかにする。a.数種類の食道がん細胞株をFGFR3IIIc高発現株と低発現(または発現無し)の株に分類する。In vitroで、3Dスフェロイドアッセイにより増殖能とFGFR3IIIc発現との関係を、トランスウェル浸潤アッセイにより浸潤能との関連を調べる。b.FGFR3IIIc高発現株の内在性FGFR3IIIc発現をsiRNA、shRNAによりノックダウンし、増殖能、浸潤能が低下するかを調べる。c.FGFR3IIIc低発現株にレンチウイルスベクターを用いてFGFR3IIIcを高発現させ、増殖能、浸潤能が高くなるか調べる。d.FGFR3IIIc高発現食道がん細胞の分泌するエクソソームと低発現食道がん細胞での分泌するエクソソームの内容物を解析することにより、腫瘍内、または生体内での環境に対する影響の違いが起こっている可能性を検討する。すなわち、遠隔臓器へ転移しやすい環境を作っているか、主要臓器の代謝障害などを起こしている可能性などを検討する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
論文執筆のためのデーター収集に遅れが生じたため、論文校正の謝金の支払いを来年度に繰り越した。
|