研究実績の概要 |
目的 前年までの研究で、様々なステージの食道がん患者検体の免疫組織化学染色により、線維芽細胞増殖因子受容体3(FGFR3)の選択的スプライシングアイソフォームFGFR3IIIcの発現量ががん部位では正常粘膜部位と比較して高く、発現比が平均値より高い患者は低い患者より全生存期間が有意に短くなることを示した。FGFR3IIIcが食道がん患者の予後を悪くする原因として、FGFR3IIIcの発現ががん細胞の増殖促進と抗がん剤耐性の獲得に影響を及ぼしている可能性を、食道がん細胞株を用いて検証した。
結果と考察 ヒト食道がん由来扁平上皮がん細胞株ECGI-10細胞は、増殖速度が速くFGFR3IIIcを内在性に発現している。FGFR3IIIcの発現をsiRNAによりノックダウンすると、細胞増殖能が抑制された。siRNA処理したEC-GI10細胞に、再びレンチウイルスベクターでFGFR3IIIcを発現させると細胞増殖能が亢進し、FGFRチロシンキナーゼ阻害剤AZD4547の処理で増殖が阻害された。FGFR3IIIcの下流細胞内シグナル伝達経路を調べるため、MEK阻害剤、PKC阻害剤、Akt阻害剤, PLC-gamma阻害剤で処理すると、MEK阻害剤、PKC阻害剤、Akt阻害剤でそれぞれ、40.8%、28.1%、35.1% 増殖を抑え、MEK阻害剤が最も強い効果を示した。さらに、食道がん細胞株TE4を用いて、FGFR3IIIcを過剰発現し、抗がん剤耐性の変化を調べたところ、フルオロウラシルに対する耐性が約6倍に上昇した。以上の結果から、FGFR3IIIcは食道がんの増殖促進と食道がん患者の全生存期間の短縮、及び抗がん剤耐性獲得に関わっていると考えられる。従って、FGFR3IIIcは、食道がんの診断マーカーおよび治療の標的としての可能性が高いことが示された。
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