研究課題/領域番号 |
17K10617
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研究機関 | 千葉県がんセンター(研究所) |
研究代表者 |
田川 雅敏 千葉県がんセンター(研究所), がん治療開発グループ, 部長 (20171572)
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研究分担者 |
島田 英昭 東邦大学, 医学部, 教授 (20292691)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 食道がん / p53経路 / 細胞傷害活性 / MDM2分子 / p21分子誘導 / CP-31398 |
研究実績の概要 |
日本人の食道がんにおいて最も高頻度の変異はp53遺伝子であり、大部分の症例でp53経路がloss of functionとなるため、同疾患では抗がん剤や放射線治療に抵抗性となる。したがって、このp53分子の正常化が本疾患の治療標的の一つとなりうる。そこで、p53正常型分子を発現するアデノウイルス用いて、ヒト食道がん細胞株に感染させると、p53遺伝子型に関わらず殺細胞効果が生じていた。すなわち、食道がんではp53分子から細胞死にいたる経路が保持されていると推定され、p53分子機能を正常化できる薬剤は新しい治療薬となりうる。当該薬剤は作用点によって区別されるため、代表的な試験薬について、p53遺伝子型が異なる食道がん細胞を用いて検討した。MDM2阻害剤はp53のユビキチン化を抑制してp53分子の安定化を図り、またMDM4阻害剤はMDM2との結合を阻害して同様にp53分解を阻害する。そこで上記阻害剤であるnutlin-3a, RITA, RG7112, NSC207895を用いて、殺細胞効果を検討すると、これらの薬剤はいずれも食道がん細胞の増殖を抑制したが、その抑制効果はp53の遺伝子型とは関係しなかった。そこで、変異型p53分子を正常型に変換しうるPRIMA APR-246およびCP-31398を用いて、細胞傷害活性とp53遺伝子型を検討した。その結果、同薬剤の傷害効果と遺伝子型とは相関性がなく、CP-31398はp53分子の発現およびそのリン酸化には影響を与えなかったが、p53分子の標的であるp21分子の発現を増加させた。また同様なCDK阻害効果を有するp27分子の発現には影響を与えず、さらにp21発現誘導に関するAMPK経路を検討したが、同薬剤はAMPK-mTOR経路には効果がなかった。したがって、同薬剤のp21分子誘導は非p53経路、非AMPK経路によると想定された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度より継続して、p53分子に作用する薬剤について検討し、p53経路の正常化による食道がんに対する細胞傷害活性の結果を得た。またHippo経路に関して、当該経路の異常によって標的となる、AMPK-mTOR経路、focal adhesion kinase活性、低分子Gタンパク質機能に関してそれぞれの阻害剤を用いて検討した。AMPK-mTOR系についてはmetfornin, rapamycin, focal adhesion kinaseについてはdefactinib, 低分子Gタンパク質についてzoledronate(主に非Ras系のGタンパク機能阻害効果)を使用し、9種類のヒト食道がん細胞における抗腫瘍効果をみたところ、同効果とHippo経路の異常との相関性を示す結果は得られなかった。この検討した薬剤の中でCP-31398は特徴的な分子発現を示した。同薬剤は特定のp53変異型を正常型に変換しうるが、使用した食道がん細胞はこの遺伝子型変異を有するものはなく、事実同薬剤はp53遺伝子型を問わずp53発現を上昇させなかった。しかし、p21発現はmRNAレベルでp53の遺伝子型によらず全例で亢進し、細胞周期をS期あるいはG2/M期で停止させ、さらにはsub-G1分画を増加させていた。さらにこのとき、p21分子の発現制御に関わる転写因子であるYY1分子もCP-31398によって発現が上昇していた。しかも、YY1のsiRNA処理によって、当該p21分子発現上昇が消失していた。したがって、本研究では食道がんにおけるp53経路とHippo経路のクロストークについては知見を得てはいないが、p53分子の転換に関わるCP-31398の解析を通じて、YY1を起点とした、p53経路非依存的な細胞増殖停止・細胞死の誘導が惹起されることが判明した。
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今後の研究の推進方策 |
食道がんでは、シスプラチン処理によるp53発現上昇がp53遺伝子型を問わず起こらないが、caspaseのcleavageが誘導されるため、非p53経路による細胞死の経路が存在している。この経路に関してCP-31398の作用機序と類似性があるので、同薬剤の特徴的なp21分子の転写レベルにおける調節機構を明らかにする。また誘導されたp21分子発現の生物学的特性についても、p21に対するsiRNA、YY1に対するsiRNAを用いて明らかにする。またp53経路とHippo経路に関するクロストークについては、p53経路が正常に作用する細胞を使用して明らかにする。当該細胞については、MDM2阻害剤であるnutlin-3a処理で内因性p53発現が上昇し、細胞傷害活性が惹起される細胞をスクリーニングして検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由)本年度の研究が比較的順調に進行したが、p53遺伝子を発現するアデノウイルスを使用し、外因性にp53分子の発現による効果を検討できていない。そのため当該ベクター作製に関する支出が少なくなっている。また低分子化合物はすでに購入していた薬剤をできるだけ使用したため、新規購入品が少なかった。また発現検討に使用するその他の生化学的試薬等も、既存の試薬を使用できたため、当該費用は比較的低く抑えることができた。 (使用計画)次年度はp53経路が正常に作用する細胞をスクリーニングし、同細胞を用いてHippo経路の各種阻害剤についてその細胞傷害活性を検討する。さらに同薬剤によるp53発現の亢進の有無を検討する。一方内因性あるいは外因性p53分子の発現を、p53分解の阻害剤あるいはアデノウイルスを用いて上昇させ、その時のAMPK-mTOR、focal adhesion kinase、低分子Gタンパク質の機能に与える作用を検討する。そのうえでp53経路とHippo経路のクロストークを検討する。そのために、必要な薬剤あるいは当該分子のsiRNA試薬の購入に研究費用を当てる。またHippo経路とp53経路との相互作用を関係の解析には、当該経路の機能分子の発現を知る必要があり、当該分子の各種リン酸化抗体を購入する。
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