近年、診断の向上や新規抗癌剤の登場により胃癌患者の生存率は向上しているが、胃癌は本邦において以前癌死亡原因の第3位と主要な死亡原因の一つである。特に腹膜播種は根治的手術を施行された胃癌患者における再発様式の40-60%を占める最も重要な予後因子であり、腫瘍の進展そのもの以外にも随伴する症状が患者のQOLを著しく低下させるが、腹膜播種に至る分子機構およびその病態は未だ不明な点が多く、標準的治療法は確立されていない。近年では局所高濃度維持による効果の増強を目的とした抗癌剤の腹腔内投与が行われており、加えて抗癌剤の腹腔内投与時に温熱療法を併用することの有用性も既に示されているため、本研究で我々は、抗癌剤や温熱処置により傷害を受けた細胞から受動的に放出される損傷関連分子パターン (DAMP) が、腹腔内細胞にどのような影響を及ぼすかを明らかにすることで、抗癌剤の抗腫瘍効果を増強するための手段や癌細胞の免疫逃避を解除する方法の開発を目指している。In vitroにおいて、マウス大腸癌CT26細胞およびマウス乳癌EMT6細胞が温熱処理により100%殺傷される条件を検討した。決定した条件にて処理した細胞をBalb/cマウスの腹腔内に投与し、腸間膜における変化を経時的に解析した。温熱殺傷細胞移入2日後、3日後の腸間膜において、著明な細胞浸潤と脂肪滴サイズの有意な減少が認められた。温熱殺傷細胞移入2日後のマウス腸間膜より酵素的に分離した細胞のフローサイトメトリー解析より、PD-1陽性細胞の増加が認められた。PD-1陽性細胞は温熱殺傷細胞移入2日後の脾細胞においても増加していたが、PD-1陽性細胞の増加は生細胞移入時には見られなかった。細胞表面マーカー解析より、細胞表面マーカー解析より、温熱殺傷細胞に応答している細胞はCD11b陽性の単球、顆粒球系の細胞であることが明らかとなった。
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