研究課題
炎症性腸疾患では、慢性炎症に伴う大腸癌の発生リスクの増加が問題となる。脂質メディエーターであるスフィンゴシン-1-リン酸(S1P)は、炎症と癌の両者によく関連し、マウスモデルで証明されているが、ヒトにおける炎症性発癌への関与はこれまで不明であった。本研究の目的は、「潰瘍性大腸炎に伴う大腸癌患者におけるS1Pの役割を明らかにし、新たな治療法開発へ向けた研究基盤を確立すること」である。これまでに本研究により解明された結果を以下に記載する。・課題研究A「潰瘍性大腸炎に伴う大腸癌患者におけるS1Pシグナルの役割」として、潰瘍性大腸炎関連大腸癌(CAC)の手術検体を用い、免疫染色により癌部および非癌部におけるS1P産生酵素(pSphK1)の活性化を解析した。その結果、CACでは通常型大腸癌と比較してpSphK1が染色強度・面積ともに高発現していた。通常型大腸癌ではpSphK1陽性例が30%、CACでは90%であった(P < 0.01)。早期癌で検討すると、通常型大腸癌でpSphK1発現を認めなかったのに対してCACでは100%発現を認めた(P < 0.01)。潰瘍性大腸炎関連大腸癌における脂質メディエーター(S1P)の関連についてJournal of surgical research誌で発表した。・課題研究B「次世代シークエンサー(NGS)による潰瘍性大腸炎に伴う大腸癌の遺伝子変異検索」として、NGSを用いて潰瘍性大腸炎関連大腸癌の遺伝子解析を行った。当科では、既に通常型大腸癌201例に対し,次世代シークエンサー(NGS)を用いて415の癌遺伝子の変異検索を完了しており、データベースを完備した。通常型大腸癌におけるRNF43遺伝子変異について解析し、Oncology reports誌に発表した。また、潰瘍性大腸炎関連大腸癌と通常型大腸癌における遺伝子発現解析を比較し、両者の相違等につき考察しWorld Journal of surgical oncology誌で発表した。
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Oncology reports
巻: 43 ページ: 1853, 1862
10.3892/or.2020.7561