研究課題/領域番号 |
17K10631
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
水島 恒和 大阪大学, 医学系研究科, 寄附講座教授 (00527707)
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研究分担者 |
松田 宙 大阪大学, 医学系研究科, 講師 (00379207)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 自然リンパ球 / 大腸癌 / 腸炎関連大腸癌 / 炎症性腸疾患 |
研究実績の概要 |
平成29年度は、通常型大腸癌手術症例の切除標本よりサンプルを採取し、自然リンパ球(ILC)の解析を行った。切除標本の正常粘膜部・癌部より腸管粘膜および癌組織を採取し、酵素処理を行って細胞を単離し、腸管粘膜固有層単核球(LPMCs)および癌浸潤単核球を採取した。これらをFACSにて解析し、Lineage(CD3, CD11c, CD14, CD16, CD19, CD20)-CD45+のT細胞・B細胞とは異なるリンパ球集団が存在することを確認した。さらに、この集団をCD56、CD127、CD117、CRTH2、NKp44といった表面抗原マーカーを用いて解析し、ヒト正常腸管粘膜および癌間質には様々な分画のILCが存在することが確認できた。正常大腸粘膜のILC分画の分布は、ヒト末梢血や腸間膜リンパ節、脾臓におけるILC分画の分布と全く異なっており、中でもCD127+CD117+NKp44+ ILCsが特異的に多く存在することがわかった。サイトカイン産生をRT-PCRを用いて評価したところ、同分画では高いIL-22のmRNA発現を認めた。 平成30年度は、大腸正常粘膜部および癌部に存在するILC分画の比較を行った。癌部では、正常大腸粘膜と比較し、CD127-CD56+ ILCsおよびCD127+CD117+NKp44+ ILCsの割合が大きく減少し、CD127+CD117- ILCsの割合が増加していた。また、潰瘍性大腸炎(UC)の炎症部では、非炎症部と比較し、CD127+CD117+NKp44+ ILCsの割合が減少し、CD127+CD117- ILCsの割合が増加する同様の変化が認められた。現在、大腸正常粘膜部、癌部、UC炎症部粘膜・非炎症部粘膜より各分画を単離しFACSを用いて採取し、RNAを抽出して、RNAシークエンスによる遺伝子解析を行っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
炎症性腸疾患(IBD)関連癌の中でも、UC関連大腸癌に着目し解析を進めているが、頻度が少なく、十分なペースで標本を採取できていないため、解析がやや遅れている。通常型大腸癌症例を用いた正常大腸粘膜および癌部、IBD症例に関しては、症例数が蓄積されてきており、分画やサイトカイン産生の変化が明らかとなってきている。
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今後の研究の推進方策 |
手術切除標本よりリンパ球を分離・採取し、FACSを用いて解析することで、ヒト正常大腸粘膜および癌間質、IBD腸管に存在するILC分画を確認できた。正常大腸粘膜には、特異的なILC分画が存在し、各分画間におけるサイトカイン産生の変化も確認できた。また、通常型大腸癌症例における正常大腸粘膜と大腸癌間質では、ILC分画の分布が大きく異なっていた。今後は、蓄積した症例におけるILC分画と臨床病理学的因子の関連を検討する予定である。 IL-22 pathwayに関しては、通常型大腸癌においては、IL22を高発現するCD127+CD117+NKp44+ ILCsが癌部で減少していることがわかった。今後、腫瘍深達度によるIL22産生能の変化を、FACSを用いた細胞内染色や、RT-PCRで評価する予定である。また、IBD関連癌症例に関しても、非癌部・癌部におけるILC分画やサイトカイン産生能を、通常型大腸癌の非癌部・癌部と比較し、評価していく。 遺伝子発現に関しては、現在、通常型大腸癌症例の大腸粘膜部・癌部およびUC炎症・非炎症粘膜からILC分画を採取し、RNAシークエンスによる解析中である。症例を蓄積して、UC関連大腸癌の癌部に存在するILC分画についても解析の追加を検討中である。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由)FACS抗体、細胞抽出用試薬、PCR関連試薬を購入し、今年度の実験に必要な物品を購入し終えたため。 (使用計画)引き続き、上記同様FACSおよびPCRに必要な試薬の購入や、RNAシークエスの費用として使用する予定である。臨床検体を用いて免疫細胞を分離し解析することで、IBD関連癌に関連する因子を同定するため必要な物品である。
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