研究実績の概要 |
平成28年度~29年度で、ヒト大腸粘膜に存在する自然リンパ球(ILC)分画ならびに各分画の遺伝子発現プロファイルを明らかにした。正常大腸粘膜に存在するILC分画は、通常型大腸癌の腫瘍組織、潰瘍性大腸炎(UC)の炎症・非炎症大腸粘膜、およびUC関連大腸癌の腫瘍組織にも存在しており、各ILC分画の分布には変化が見られた。 平成30年度は、大腸正常粘膜、通常型大腸癌組織、UCの炎症・非炎症粘膜に存在するILC分画の遺伝子発現を、RNAシークエンスにより解析した。大腸癌およびUC手術症例の切除標本より、ILC分画(ILC1, NKp44- ILC3, NKp44+ ILC3)を単離・採取し、RNAを抽出してシークエンスを行った。NKp44+ ILC3は、大腸正常粘膜に最も豊富に存在するILC分画で、腸管特異的な分画であった。大腸正常粘膜より採取したNKp44+ ILC3は、既報のIL22に加え、LTAやLTB, TNFなどのリンパ組織形成に関与する遺伝子を高発現していた。進行大腸癌組織において、NKp44+ ILC3は減少し、リンパ組織形成に関連する遺伝子の発現が特異的に低下していることがわかった。進行腫瘍におけるNKp44+ ILC3の減少は、腫瘍局所における抗腫瘍免疫の場と考えられている三次リンパ組織(TLS)の減少と有意に相関しており、通常型大腸癌においてNKp44+ ILC3がTLS形成を介した抗腫瘍免疫誘導に関与してる可能性が示唆された。一方、UCの炎症部に存在するILC3では、正常粘膜や通常型大腸癌組織、UC非炎症部に存在するILC3と比較し、IL22の発現が高かった。UC関連大腸癌の腫瘍組織に存在するILCの採取・解析は、頻度が少ないため行えていないが、マウスレベルで示されているILC3ならびにIL22のUC関連大腸癌における腫瘍増殖促進への関与を支持する結果であった。
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